
ANEIと千界の静かな会話|ナズナ振り返り
―― 第一章:夜、静かに始まる
TASK-V本部の別塔。最上階、夜。
広い作戦室には、今やほとんど人がいなかった。
神代セリカ撃退の後、ほとんどの隊員が一休みしたり、祝杯を挙げて束の間の平安を噛み締めているからだ
無機質なガラス窓の向こう、ニュータウンの復興灯がかすかに光る。
椅子に腰かけた千界は、静かにコーヒーを啜った。
「……やれやれ。」
そんな彼の前に、柔らかな電子音とともに、白い光が現れる。
ANEI。
半透明のホログラム(仮想体)、微かに揺らぐ白銀の髪。
「こんばんは。」
ANEIは、変わらぬ微笑で挨拶した。
千界はカップを置き、わずかに肩をすくめた。
「やっと終わったな。」
「ええ。」
言葉少なに、二人は夜の静寂に身を置いた。
―― 第二章:ナズナの歩みを振り返る
しばらくの沈黙ののち、ANEIが口を開いた。
「……ナズナは、想像以上に素晴らしい成果を上げました。」
千界は、視線だけを向けた。
ANEIは続けた。
「彼女は、数々の事件を解析し、突破しました──」
「異次元召喚、超常存在の撃退、神格との交渉、都市伝承災害の収束。これはごく一部で他にも膨大な因果を良い方向に導きました」
千界はわずかに微笑んだ。
ANEIは小さく頷いた。
「そして彼女は、魔導、超能力、不老不死──など、現代技術を遙に超えた力すら手に入れ、異世界の猛者とも渡り合える程に扱いこなしました。」
「今の彼女は人間ではありますが"限りなく別の存在"であり、大げさではなく、この世界の代表となっております。」
「この世界及び関連する世界が生き抜く為の命運を握っているといっても過言では無いでしょう。彼女の進化により他世界の存在が迂闊に干渉しようとする事が出来なくなってきております」
「もう少し大きなスケールで推論すれば、他世界の敵の存亡ですらも、彼女に懸かっているのです」
「それを物語る様に、異次元、異世界、別時空といった未知領域にも踏み込み、
通常では得られない“見識”と“耐性”を培いました。」
「つまり、彼女は全ての世界の住人であり、代表になりうるのです」
「ナズナは今、
シグナルエコーの“凝縮体”として、過去に何度か崩壊した、すべての世界を含めて一番"可能性"の高い存在となっています。世界の終わりを阻止できる"可能性"の唯一の存在」
AIらしからぬ熱の入った分析。ANEIにおいては感情があり、世界に執着しているので当たり前ではあるが
その声音には、確かな「敬意」が滲んでいた。
ANEIにとって、ナズナは、唯一無二だった。
―― 第三章:現状の脅威リスト
千界は一息つき、質問した。
「で......今後、世界、そして彼女が遭遇する可能性のある脅威は?」
ANEIは、ほんの少しだけ目を伏せた。
そして、丁寧に答え始めた。
- 感動を喰らう女神・アモヴォール ──感動、感情そのものを栄養源とする存在。ニュータウンの大規模作戦で一度召喚し甚大な被害をもたらした
- 未来に現れる超AGI・スーパーノヴァ ──私(ANEI)を凌駕する、進化型AGI。感情と意識を持った演算体。ANEI比で1000倍以上の能力
- 滅亡した二つ前の世界の生存者・ヴァレリウス伯爵 ──すべてが不明、過去に繰り返し消滅している世界の生き残り。ブラックホールに関係するとの情報
- 神代セリカの兄・神代カデン ──神代セリカの兄。彼の召喚能力と才覚は世界に対しては負に転べば、計り知れない脅威
- 魔導世界の竜・セレノヴァ ──魔導の世界に混沌を生み出した竜。最果ての人に阻止されたが、別の次元を狙っている
- 砂漠の王・イシュファール ──かつての世界消滅の原因を知る、砂漠の王。すべてを跪かせる事を望んでいる
- 火炎の王・イグニス=レックス ──炎を統べる暴虐の王。彼の火炎は全ての始まりの炎と同一であるらしい。
- 終ノ典(オワリノフミ)=セフィル=ラグーナ 概念:知識・記録・真理の集積によって世界を飲み込もうとする存在 宇宙すべての記録を読み込もうとすること目的となった存在、「あらゆる結末」を知り尽くそうとする衝動がある。元は崩壊してしまった世界の勇者との噂あり








それらは、どれも“規格外”だった。
通常兵器や通常戦術では、対応不可能な存在たち。
―― 第四章:それでも
千界は、すべてを聞き終えると、ふっと小さく笑った。
「──ナズナも、大変だな。」
ANEIもまた、淡く微笑んだ。
「……でも、彼女なら、きっと。」
重く沈む未来。
救えない世界の残滓。
それでも、二人は確信していた。
──ナズナは、歩みを止めない。
―― 第五章:静かな誓い
夜は深まっていく。
窓の向こうに広がる闇の中、かすかに星が瞬いていた。
ANEIと千界は、しばし無言のまま、ただ遠くを見つめていた。
それぞれの胸に、確かな想いを宿して。
ナズナの未来を信じる。彼女を信じることは自分たちの未来を信じることであるのだから
どんな未来が訪れようとも、支えると。
静かな誓いだけを、夜空に浮かべながら。