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アモヴォール

陛下は語る──感動とは、最も上質な食事ですのよ?

あらあら……また迷い込んできたのね。
ええ、歓迎して差し上げますわ。
ここは感情の食卓。愚かな者たちが捨てていく美味なる感動の墓場。
そしてわたくしが、それを拾って丁寧に盛り付けてあげるの。

わたくしの名はアモヴォール。
感動を喰らう神格。“愛を知る陛下”とでもお呼びなさいな。

宝石? 絵画? 歌劇?
そんなもの──感動の“副産物”ですわ。
美とは、もっと深い。もっと粘度のある、赤くて熱い“情緒”そのもの。

あなた、愛されたことは?
涙が出る程、誰かを守りたいと思ったことは?
心を震わせて、「この瞬間に生きていた」と叫んだことは?

そう、それよそれ。
わたくしが頂くのは、まさにそれ。

わたくしのコレクションルームには、水晶玉が並んでおりますの。
一つひとつに、“とっておきの一皿”が封じられている。
母を抱いて泣いた少女の声。
革命前夜に鳴った鐘の音。
最愛の恋人と交わした約束。
どれも、どれも、美しい。

ぞくぞくさん──静寂の前菜

最近の人間? まぁ、味が落ちた落ちた!
“喜怒哀楽”がファストフード化していて困りますわ。
本当に。

それでね、ちょっとだけ、仕掛けてみたの。
SNSに、“名前だけ”を流して。
ぞくぞくさん。──うふふ、あの子、可愛かったでしょ?

動画なんて要らないのよ。名前だけで、感情は伝播する。
みーんな怖がって、バズって、止まっていった。
話さず、動かず、考えなくなる。
“最高の沈黙”の完成!
ええ、それはそれは見事なテーブルセッティングだったわ。
すべての感情を美味しく頂きましたわ。ごちそうさま

ナズナ──未完成の最高級

そして、近頃でいちばんの“興味深い素材”……ふふふ、
その名は、ナズナ

あの娘、ひどいのよ。
どこをどう味見しても、何一つ完成していないのに、
どの部分にも、可能性が詰まっている。

その眼差し、歩き方、声の揺れ方──
全部、未完成の“前菜”だというのに、
香りだけで涙が出る。

わたくし、まだ彼女に指一本触れていないのよ?
でも、あの子が世界に放つ“波長”、それだけで酔いそう。

感情の塊。希望の試作。反響の器。
ナズナは、わたくしがまだ一度も味わったことのない“本物のフルコース”の気配を纏っている。

──だから、そっと狙っているの。
あの娘を壊してしまわないように。
熟しきった、その瞬間。
涙と絶望と、誰にも届かない答えが、
彼女の口から放たれるその瞬間。

……その“感動”、わたくしが、いただきますわ。

技の発動──女神の美食術

オーディエンス・ゼロ

すべての物語が無意味になる劇場を開きましょう。
誰もあなたを観ていない。
だからあなたは、最も美しい。

ファンタズム・エンド

希望? 嘘? 夢?
ええ、壊しましょう。
嘘が割れる音は、甘くて、とろけて、
まるで焼きたての砂糖菓子。

グランド・ティール

あなたが最も輝いた瞬間に、
わたくしが微笑んで、こう言って差し上げる。
「そのまま、止まっていてね」
そして、あなたは永遠になる。

終宴に向けて

あら……涙が出てきた?
安心して。嬉しいときに泣くのが人間よ。
でも、わたくしは──

“嬉しいときこそ、食べたくなる”の。

ああ、ナズナ……
あなたが笑って泣く瞬間を、
わたくしの皿にのせる日が、待ち遠しいわ。

それまでせいぜい、感情を育てておきなさいな。
あなたのすべてが、
わたくしの“最後の晩餐”になるのだから。