ブラックホールとは？この宇宙の謎の保管庫

― 時間が歪む場所、そして“物理法則の境界線” ―

地球上で1秒を刻む時計。それをブラックホールに近づけると、どう変わるのか？答えは──時間が遅くなる。極端に。

アインシュタインが導き出した「一般相対性理論」は、質量を持つ物体が時空を歪ませることを予言した。この「歪み」が重力の正体であり、重力の強い場所ほど時間はゆっくり進む。

この理論を極限まで適用した結果が、ブラックホールという概念である。

この理論によって、重力レンズ・GPS補正・ブラックホールなど、観測と一致する現象が多数確認された。

質量が極端に集中した天体が、自らの重力で“光すら脱出できない”領域を形成する。その境界を「事象の地平面（event horizon）」と呼ぶ。中心には「特異点（singularity）」があり、時空の曲率が無限大になる＝理論の限界。

外部観測者にとっては、ブラックホールに落ちていく物体は次第にスローモーションになり、事象の地平面で止まったように見える。光は赤方偏移し、見えなくなる。

しかし、物体自身の主観では落ち続けており、特異点へ有限時間で到達する。つまり、ブラックホールは「観測の断絶」が生じる空間であり、外から中の様子を知ることは不可能。

スティーヴン・ホーキングは1974年に、ブラックホールも蒸発する「ホーキング放射」を提唱した。しかし、情報が失われるとすれば量子力学の法則に反する。

これをめぐり「情報は保存されているのか？」という議論が続く。ホログラフィック原理や量子エンタングルメントの保存など、情報保存を肯定する理論が主流になりつつある。

ブラックホールはただの“吸収装置”ではなく、「情報やエネルギーの再配分・再構成装置」としての側面があるのではないか？

重力、光、時間、情報── あらゆる物理法則が、ブラックホールの前ではねじ曲がる。

数式の中でその姿は描かれ、観測の中でその影は捉えられた。けれど、その中に入った者はいない。

ブラックホールとは、物理が崩れ始める“宇宙の縁”。知識と無知の境界、存在と消失のはざまにある「現実の深淵」だ。

世界の謎は、まだ「観測不可能領域」の中に眠っている。