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ハーメルンの笛吹き

校内放送が、君の名前を呼ぶとき──消える

――名前は旋律になる。そして人は、音として消える。

✦ プロローグ(静かな旋律のはじまり)

春の雨が止んだ、ある朝。都内の学園で、ひとつの奇妙な現象が始まっていた。

たった10日で50人──“自主退学”とされながらも行方不明になっていた。保護者の誰もが「昨日まで確か普通に登校していたが、その時の記憶が曖昧だ」と証言する。妙な事に誰もヒステリックにならず、いないことが当たり前のような他人事の雰囲気で語っていたのだ

担任教師は空いた机の数に疑問を持たないし、同級生たちの記憶からも、その存在は“まるで初めからいなかったかのように”掻き消されていた。

ただ、ひとつだけ学内で異常が訴えられている。――昼休み、決まって流れる校内放送。その声が毎日、誰も知らない“名前”を呼ぶのだ。

まるで、音に誘われるように。彼らは、ひとりまたひとりと“笛の音”に導かれるように、現実から脱落していった。

✦ 依頼:少女の声と、最後の名

ナズナがこの事件の依頼を受けたのは、以上の現象の内容と共に“私の名前が、明日、呼ばれるの”と助けを依頼するメッセージがあったからだ。

それは、震えるような声が聞こえてきそうな内容だった。

「みんな、音に連れていかれた。最初は音楽室だった。今は放送から聞こえる。聞いた瞬間に、何かが胸の奥を締め付けて、どこかへ行きたくなるの。私は、ナズナさんに“覚えていてほしい”んです。私のことを。でないと戻ってこれない気がして.....」

しかし、ナズナが放送より前に学校に尋ねたが、その少女の名前は、もう学校の記録には存在しなかった。

✦ ナズナの調査開始|音が喰う校舎

ナズナは、すぐに校内に潜入。彼女は、ANEI(AI)のデバイスを取り出し付属のIOT機器を取り出す、学校の設備やインターネット環境に接続し違和感を分析するプログラムを走らせる。

✦ 過去の因果:響き続ける亡霊の旋律

ナズナは、学校の機密データから、50年前の“未発表の国家実験”を発見する。

当時、国家は「感情と音楽の連動性」に関する極秘研究を行っていた。この学園は実験場とされ、「全校生徒が1年間、同一の交響楽曲を演奏し続ける」という奇怪なカリキュラムが強制された。

ある日、演奏中に42名の生徒が一斉に倒れ、昏睡状態に陥る。これは恐らく音の構成の身体的影響であった、音声を逆から再生すると生徒達は何事も無かったように元に戻った。

記録はここで途切れていた。この情報に違和感を感じたナズナはANEIで当時演奏された“音源ファイル”を復元する。

──その音源は、まさしく今の放送と一致していた。

✦ 対決:逆再生する祈り

ナズナは、消えた生徒たちの“記録に残らない名”をANEIによる校内の過去の残存する機密データによって再構成。そして簡易的な音響逆演算プログラムをアプリとして作成もした。いつもの名前呼び出しパートの演奏で消えた生徒達の名前を一斉に合成音声(生徒を呼び出す声と同じ)で逆読みで唱えさすのだ。

“放送”のタイミングでシステムが作動するように放送室の設備にインストールし強制的に優先実行されるようにもした。


放送が開始される。その瞬間、逆再生の奇妙な音の渦が校内を満たす。

生徒呼び出しパートの演奏に入り、逆位相で読み上げられた名達が、まるで何もなかった様に校内に還ってくる。次々と、他の生徒たちの記憶の深層から戻ってきた生徒の記憶が元に戻る。

机が戻り、クラスはざわめきながらも“修復”されていく。

だが──最後のひとりだけ、戻らなかった。

✦ 楽園の笛吹き:笛貫リコ

「あなたは……何者?」

ナズナは一人の少女の前に立つ、帰還した数が一人多かったのだ、どの名簿にも記録されていない少女。彼女は笛を手に、静かに後者の裏にナズナを呼び出した。

「私は、"呼び出されていなくなってしまった"彼らを導くために吹いたの。飲み込まれて行き場を無くした子たちを安らぎに導く為に......」

その瞳は、まるで慈母のようで、同時に演奏者の冷静さを湛えていた。

彼女は多くは語らずに安心した顔をして、最後にひと吹きし短く旋律を吹き、光のなかへと消えた。その音は、安心に満ち足りた光の様な音だった。

その音はナズナの胸の中で──何かを震えさした。

笛貫リコの正体と祈り

──旋律は、実験の演奏により、消えた子どもたちを導くための光だった。

✦ リコは何者だったのか?

リコは、国家による“音と感情”の操作実験において、最初に「失敗した」少女だった。

名前と感情を旋律化する実験中に、彼女は“肉体を喪失”し、人間としての存在を失ってしまう。

だが、その“音の痕跡”だけが学校に残され、彼女は放送設備や校舎の音響フィールドに定着することとなる。

✦ リコの役割:旋律に消えた子どもたち

国家実験では、記録上存在しない扱いにされた子どもたちがいた。彼らは名前も記録も持たず、“ただいた”だけの存在だった。

実験の副作用によって彼らは肉体を失い、“名前”が旋律として放送されるたびに、記録にも残らず、現実から消えていった。

リコは、そんな子どもたちの旋律を奏で、“音としての世界”へと導いていた。

✦ ナズナ最終考察

✦ リコは「犯人」なのか?

いいえ。リコは犯人ではなく、“最初の犠牲者であり、導き手”である。またナズナの依頼人でもある

彼女自身も、かつての実験の失敗により最初に存在を消されたひとりで、実験の失敗で消えた子たちを穏やかな世界へ旋律で導く者となった。

また“現在進行形で消失する状況を食い止めようとしていた。”だった。

ナズナは最後に想う。
「彼女の美しき調べは消えた存在にとって、どれほどの安らぎをもたらしたのだろうか......」

しかし、何故今頃に五十年前の実験が再度、発動したのだろうか?何かもっと深いところでつながっている可能性も.......