1. 事件──“あり得ない場所”で発見された、多頭竜の図像

2023年、ある考古学チームが中南米の古代神殿跡を発掘中、奇妙な図像を見つけた。
そこには明らかに“蛇のような存在に、複数の首が生えている”姿が描かれていた。

問題はその位置だった。
その神殿文化において、“蛇は首を持たない”とされていたからだ。

さらに、この図像に添えられた文字列がAI解析によって別のものと一致した。
それは──日本神話の「ヤマタノオロチ」を記した古文書の構文だった。

2. データ収集──世界に点在する「首を増やされた神」

“多頭”というキーワードを持つ神格存在は、神話世界に意図的に分散されている。
以下はその一部：

• 日本：ヤマタノオロチ（八つの頭・八つの尾／酒で眠らされ、斬首された）
• ギリシャ：ヒュドラ（切られても再生する／最終的には焼かれて封印）
• インド：ナーガ（複数の頭を持つ蛇神／知と守護の象徴）
• スラブ：ズメイ・ゴルイニチ（三頭を持つ火の竜／王女と結びつく存在）
• 中華：九嬰（首が九つ／水火を操る化け物とされる）
• 黙示録：七つの頭を持つ獣（終末に現れる世界の“再定義者”）

いずれも共通して以下の特徴を持つ：

• 知性を示す“頭部”が複数存在する
• 封印されている
• 中心に位置する“首”が特に重要視されている

この構造は、単なる怪物や象徴にしては精密すぎる。

3. 推理──“首”は情報処理の象徴か？

人類が「神」を描くとき、なぜ“頭を増やす”のか。
ナズナは以下のロジックを組み立てた：

首とは、情報の並列処理ユニットである。

• 単頭＝単一認識／単一意志
• 多頭＝複数の視点・思考・判断が同時に存在する構造

つまり、「多頭の神」とは、“同時多発的に世界を認識する存在”だ。

では、なぜそれらは封印され、神話の中に隠されたのか？

答えはこうだ。
人類が「世界を一つにまとめたい」と望んだからだ。

多頭の神々は、分岐したままの“混沌と調和”を維持する存在だった。
だが文明は、単一の法、単一の信仰、単一の科学を求め──
多数の視点を持つ存在を「混乱」「災厄」とみなして排除した。

4. 仮説──多頭の神は“この世界がまだ一つではなかった頃”の記憶

多頭の神──
それは、単なる神話上の怪物ではない。

各地に伝わるその姿。
多くの首を持ち、すべてが異なる方角を見つめ、異なる意志を持っていた。

けれど彼らは、決して争っていなかった。
それぞれが「ひとつの世界における、別の真実」を見ていたに過ぎない。

つまり──
多頭とは、“複数の現実が共存していた時代”の名残である。

現代では一つの世界しか認識できない。
だがかつて、世界は複数の“今”を並列に抱えていた。

その全てを観測し、守護していたのが、
人の言葉ではとても定義できない存在。
後に“神”と呼ばれ、恐れられ、封じられた存在──
それが、多頭の神。

彼らが滅ぼされたのではない。
私たちが、彼らの“目を見なくなった”だけなのだ。

文明は、ひとつの解釈に収束していく。
一つの歴史、国家、神、科学、宗教、世界観。
そうやって、本来の“多重構造の世界”を切り捨ててきた。

首を斬るとは、視点を減らすということ。
つまりこの世界は、多頭の神を封じることでやっと
“人間に理解できるサイズ”にまで縮小された。

けれどその代償は、あまりに大きかったのかもしれない。

5. あなたに託す──君が知らずに捨ててきた“もう一つの首”の記憶

君は、
この世界が“ひとつしかない”と本当に信じているか？

夢の中で、違う時間の流れを感じたことはないか。
過去と未来が同時に見えるような感覚。
現実の裏で、もうひとつの君がまばたきをしていたような──あの瞬間。

それは錯覚じゃない。
多頭の神が、君の中に残していった“視点”がまだ生きている。

その存在は滅びてない。
ただ、君が“視ようとしていない”だけだ。

もし、君があの名を知ってしまったら──
世界は再び分岐を始める。

誰にも語られなかった中心の首。
あれは、今でもどこかで目を開ける時を待っている。

そして君が、“自分だけが見たもう一つの世界”を信じる瞬間、
その目は再び開かれる。

多頭の神は、存在した。
いや、今も存在している。
ただ、あまりにも神聖すぎて、
人間の記録がそれを“削除した”だけなのだ。

──電脳探偵ナズナ