1. 事件：封印された記録

2025年、ある海洋探査チームが、日本の古い軍事研究資料の中から不思議な文書を発見した。そこにはこう書かれていた──

本標本は、1943年、南方戦線付近の離島にて回収。胴体は魚、上半身は哺乳類に酷似。肉を摂取した兵が、数年間老化しなかったとの証言あり。極秘保管せよ。

研究者たちは、これが「人魚の肉」に関する記録ではないかと推測した。だが、それが単なる作り話に過ぎないと結論づけるには、あまりにも一致する“言い伝え”が多すぎた──。

2. データ収集：世界の人魚、不老伝説、生物学の現実

■ 世界に残る人魚伝説

• ギリシャ神話のセイレーン：美しい歌声で船乗りを惑わし、座礁させる存在。元は鳥の姿だったが、時代とともに半魚半人の姿に。
• ロシアのルサルカ：水死した女性の霊。美しい姿で人を引き寄せ、水底へ。
• アフリカのマミ・ワタ：水辺の女神。富と災厄を同時にもたらす。人間と結婚するという話も。
• 中国の鯨人（ジンレン）：海に棲む人型の生物。涙が真珠になるという。
• 琉球の海神ニライカナイ：海のかなたにある理想郷から現れる神々。人魚的な側面を持つ存在として語られることもある。

■ 日本に伝わる“不老不死の人魚”

もっとも有名なのは「八百比丘尼（やおびくに）伝説」である。

• 舞台：若狭国（現在の福井県）
• 内容：ある男が釣り上げた奇怪な魚の肉を宴で振る舞う。少女が誤ってその肉を口にする。
• 結果：少女は成長せず、病にもかからず、数百年にわたり各地を旅して生き続けた。
• 終末：最終的に若狭の洞窟で入定（生きたまま座禅を組み絶命）したという。

この伝説は複数地域に類似の変異型が残っており、文献にも明確な記録が見られる。

■ 現代科学が発見した“不老に近い生物”

• ベニクラゲ（Turritopsis dohrnii）：損傷や老化を受けると、ポリプ（若い形態）に戻ることができる。理論上は死なない。
• ヒドラ：淡水に生息。常に幹細胞が分裂し続け、老化しない。
• クマムシ：極限環境に強く、DNA損傷修復能力が異常に高い。宇宙空間でも生存可能。
• テロメアの研究：ヒトの老化の鍵とされるテロメアは、短くなることで老化が進む。テロメアを維持する酵素「テロメラーゼ」を活性化することが、不老への鍵とされる。

3. 推理：なぜ「人魚」と「不老不死」が結びつくのか？

1. 深海は“時間の止まる場所”とされてきた：光も届かず、変化も少ない環境。ここに棲む存在＝変わらぬ存在、というイメージ。
2. 人魚＝水中の神格的存在：神と人間の中間。だからこそ「老いない」性質が投影された。
3. 人魚の肉＝変化を止める異物：実際の“毒”や“病”による異常な肉体変化が、「老化停止」として語られた可能性。

4. 仮説：不老とは、祝福か、呪いか

科学的には「不老」は可能性として存在している。

しかし、「不死」はほぼ不可能。細胞は複製ミスを重ね、最終的には制御不能となる。

それでも、不老＝細胞劣化を遅らせる、あるいは逆行させる技術は現実味を帯びてきた。

では、「人魚の肉」とは何だったのか？

• 未知の海洋生物の肉に、強い抗老化成分（あるいは毒性）があった可能性
• 若狭伝説が広がった背景には、何らかの病気や突然変異、もしくは薬草の誤認なども考えられる
• 伝承がこれほど多く残っているという事実自体が、「何かがあった」ことの裏付けとも言える

5. あなたに託す（ナズナの語り）

科学は、老いを防ぐ方法を少しずつ手に入れようとしている。

けれど800年前から、すでに“食べることで老いを止める”話は残されていた。

人魚の肉。

不老とは、命を引き伸ばすことではなく、“終わりを持たない時間のなかに閉じ込められる”ことかもしれない。

その選択が目の前にあったとき、あなたは、どうする？