
N町──誰も知らない日常儀式の正体
─── 封書より
はじめまして、ナズナさん。
どうか、“あの町”のことを調べてください。
僕は確かに行ったはずなのに、今では心の中にしか存在していません。
でも、あの提灯の光と、音のない踊りだけは──ずっと耳に残っているんです。
僕は、見てはいけないものを、見てしまったのかもしれません。
─── 第一報告:動画記録の検証と初期解析
封書には、一本のDVDが同封されていた。
再生してみると、そこには田舎町の夏祭りが映っていた。
祭囃子、子どもたちの踊り、左右対称の提灯──映像としては何の変哲もない。
だが、奇妙な点がいくつか存在した。
- すべての動きが“過剰に一致”している
- 画面右奥に時折、白い影が映り“反転”を繰り替えしている
- 観客の表情が、どれもまるで“眠っている”ように無表情
この時点で、私は依頼に応じることを決めた。
─── 第二報告:N町の現地調査
N町──GoogleMapには普通の農村として登録されている。
しかし現地を訪れると、すぐに空気の異変に気づいた。
道路、家、道端の置き石、電柱の電線──すべてが妙に“均整”を保っている。
以下は調査で判明した町の特徴である。
- 地図上で確認される道路の形状が、年々わずかに個人たちに“変更されている”それも均等になるように
- 庭石や門構えが、古代の召喚構造と一致する。特異な構造であり、古代の文字らしき形状が刻まれている
- 住民の名字がわずか三種類に集中している、それは代々、音に関する家系
- 小学校の運動会で“前に進まない”行進が行われている
祭りの日は、町の外から来る者がいない。
来ようとした者は道に迷い、“時間の感覚”を失いたどり着かないらしい。
─── 第三報告:町全体に仕組まれた召喚構造の可能性
調査を進める中で、私はひとつの仮説に行き着いた。
この町全体が、“召喚術式”そのものなのではないか?
呪文や陣ではなく、日常そのものが詠唱なのだ。
暮らしの“形”を通して、何かが“呼ばれている”。
AI推論によって、二つの可能性が提示された。
A. 封印された“元・人間”
かつてこの町にいた者のうち、「形を変えた」存在。
今は人ではないが、かつてそうだった者
B. 音を持たない“異世界の存在”
音を持たない異界の存在。それを出現さすには、町全体が長期間、均一であることが条件で、音のない祭りが最終のトリガー
均一を乱すと召喚に失敗する為、あらゆる“不均一”が町ぐるみ封じられている
─── 終報:この記録を読む君へ
もしかして──君も、N町に行ったことがあるのではないか?
地名は忘れても、無音の踊り、やけに均一な町、提灯の灯りだけは
なぜか胸の奥に残っているのでは?
思い出せないのは、君が何かに遭遇したからかもしれない。