
N町──誰も知らない日常儀式の正体
1. 事件──ある町の「ただの祭り」を見た青年は、帰ってから夢を見続けた
2024年夏、SNSに短い動画が投稿された。
映っていたのは、日本の山間部にある静かな町「N町」の夏祭り。
踊る子どもたち、提灯の灯り、舞台で演じられる神楽。
だが、その動画のコメント欄は不穏だった。
「あれ、俺も行ったはずなのに思い出せない」
「なんか提灯の位置がおかしい。逆だった?」
「夢に出てくる。あの白いやつ、見ちゃいけなかった」
投稿者は動画を削除し、以降SNSを更新していない。
N町──GoogleMapでは小さな農村として表示されるが、
古い巡礼図には「カエラズノミチ(帰らずの道)」とだけ記されている。
2. データ収集──誰も気づかない「日常」が儀式だった
N町は誰でも行ける。道路も店もあるし、観光案内所まである。
だが、外から来た人間が抱くのは「妙な整い方」への違和感だった。
- 地図アプリ上で、毎年道路の形が少しずつ“ねじれて”いる
- 住宅の庭石の配置が、古代呪文の形と一致
- 住民の名字がわずか3種のみ
- 学校の行進が“前に進まない”スタイル
- 特定の方角に向かって「絶対に手を合わせない」日がある
そして祭りの日だけは、「町の中心から外へ出てはいけない」という暗黙の了解がある。
観光客がそれを破ると、道に迷い、時間の感覚を失うという。
3. 推理──召喚のために設計された“町という陣式”
町の地形、建築、動線、生活リズム──全体をAIが解析した結果、
ひとつの構造が浮かび上がった。
この町全体が、巨大な召喚術式になっている可能性がある。
魔法陣や呪文ではなく、日常の行動と空間そのものが“式”を形成していた。
- 家々の配置が「封」「口」の字を繰り返す構造
- 通学路と墓地の線が陰陽道の結界図と一致
- 月の満ち欠けと夢の記録で祭事が決まる
言葉ではなく、暮らしそのものが“詠唱”だったのだ。
4. 仮説──何を呼んでいるのか? それは“君が名づけてはならない何か”
AIは三つの仮説を提示した。
A. 封印された“元・人間”
古文書には「一度人で、今は人でなくなった存在」が登場する。
「彼の目を見てはいけない」──祭りの夜、その役割を担う者がいる。
B. 音を持たない“神”
発音によって実体化してしまう存在。
N町では「ま行」「ら行」を極力避けた名詞が使われている。
C. この世界を構築した“観測者”
町の儀式は召喚ではなく“現実の維持”かもしれない。
式が止まれば世界が崩れ、観測者が“戻ってくる”。
5. あなたに託す──君はすでに、それの“名前”を思い出しそうになっている
君はもう、あの町に行ったことがあるのでは?
名前は思い出せない。でも、提灯のゆらめきや神楽の音は頭に残っている。
見たはずのものを「見ていない」と感じる違和感。
それは君が、儀式の“外部記憶”として処理されたことを示している。
もし今、君の中で何かがうずいているなら──
君はもうその名前に近づきかけている。
名前を思い出すな。構造を読み取るな。
なぜならそれが呼び出されるのは、“君が気づいたとき”なのだから。
──電脳探偵ナズナ