
忘れられたニュータウン ― 記憶と構造が捻じれた街の正体
1. 事件:住んでいたはずの町が、なかった
「小さい頃、確かにそこに住んでいたんです」
そう語るのは、R・Kさん(38)。東京で暮らす彼女は30年ぶりに、記憶の中の団地に行こうとしていた。
だが、町の名前は地図に残っておらず、役所でも「該当する住所の記録はない」と言われた。
記憶を頼りに現地へ向かうと、確かに団地のような構造物があった。だが、まるで“痕跡だけ”が意図的に残されていたかのようだった。
- 割れた窓の団地群
- 自販機は電源が入っているが商品が空
- ベンチの横に置かれた土のついたぬいぐるみ
バス停に貼られた紙切れだけが、唯一の証拠だった。
「◯◯ニュータウン再開発計画 1978 → 未定(中止)」
2. データ収集:ニュータウンという“幻の都市設計”
日本のニュータウン政策は、戦後の住宅不足と人口集中を解消するため、1955年〜1985年にかけて本格化した。
- 建設省「第六次住宅建設五箇年計画」(1971)
- 経済企画庁「新都市整備基本構想」
その結果、全国には以下のようなニュータウンが誕生する。
- 千里(大阪)
- 多摩(東京)
- 高蔵寺(愛知)
だがバブル崩壊後、都市部回帰が進み、郊外ニュータウンは急激に衰退。
ナズナが国交省・自治体の記録、GISデータを解析した結果、以下の「おかしな区域」が日本に12箇所以上存在することが判明する。
- 戸籍人口ゼロだが、夜間に街灯が点灯している区域
- 地図に道路だけ存在し、町名や施設名がすべて空欄
- 用途欄が「情報欠落」と記された国家予算の記録(例:平成12年文書第942号)
とくに、茨城県A市、兵庫県T町、長野県M郊外に見られる「記録と実体の乖離」が異常だった。
3. 構造の歪み:封印か、都市呪術か
ナズナが実地で訪れた某ニュータウン跡には、特異な構造があった。
- 碁盤目状の道路だが、なぜかすべて中央を避けている
- 同じ団地が90度ずつズレた向きで繰り返されて建てられている
- ロータリーが螺旋状に5層重なっていた(航空写真より判明)
また、中央には草に埋もれた“正方形の台座”が存在し、その下には地下構造がある可能性が示唆されている。
「団地群の中心部は、もともと公園になる予定だった。だが、工事は開始されていない」
――地元の元都市計画職員(2020年・非公開インタビュー)
さらに、地元小学校に残された1991年の壁新聞には、こんな記述がある。
「この団地のまんなかは、だれもいかないひみつのばしょです。ときどき、なにかがうごいています」
4. 磁場・気象・建築パターンの異常
ナズナはさらに複数の気象・地磁気・建築記録を調査した。
- 気象庁データにより、対象区域のみ“局所的霧発生”が年に数回確認
- 地磁気観測で、コンパスが2〜4度ズレるエリアが分布
- 地中レーダー調査で「大きな空洞構造」が検出されるも、用途記録なし
このニュータウンには、“都市設計”として説明がつかない要素があまりに多い。
さらに建物の配置は五芒星を思わせる構造をとっており、都市工学者は次のように述べている。
「計画段階から“特定の重心を避けるよう”デザインされている。防災設計とは相反する」
――都市設計専門家 N氏(匿名希望)
5. 仮説:記憶を操作する“都市構造”
この街の住民だったとされる人物の証言を集める中で、共通した症状が現れている。
- 夢に見た町の風景が、詳細に思い出せない
- かつて住んでいた団地の号室を「言おうとすると口が詰まる」
- 当時の同級生の名前を全員忘れていた
さらに、ある地元医師のカルテには、以下のような記録が残されていた。
「団地に引っ越した子どもたちに“幻聴・幻視・抑うつ症状”が顕著に見られた。移転後、症状は消失」
ナズナはこう仮定する。
「この街は“記憶そのもの”を分解・吸収・消去する構造を持っている」
「それは道路・建築・地下・磁場・気象・行政記録すべてを含む“多層的封印装置”だった可能性がある」
6. あなたに託す:ナズナの語り
私は、思う。
この街は、ただの過疎地ではない。
都市そのものが「記憶を初期化する装置」なのだとしたら?
都市の皮をかぶった何か──都市のかたちを借りて、何かを隠す構造。
それは“過去の失敗”か、“非人道的な実験”か、“地中の存在”か。
この地図にない街の灯りは、まだ夜ごとに点いている。
あなたがもし──ふと「この町に行ったことがある」と感じたなら。
それは、都市に飲み込まれた記憶が、あなたの中にまだ残っているということだ。
だが二度と、帰ることはできない。
なぜならその街は、**「存在しなかった」という結論」**だけが、都市計画として成功しているのだから。