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火の鳥

リザレクション──祈りの果てに、光は宿る

第1章:忘れられた村の少女

そこは地図から消えた村だった。寒さと飢え、静寂と闇。誰も訪れず、誰にも知られず、ただ季節だけが流れていく。

少女は一人そこにいた。名はない。ただ、朝が来るたびに目を覚まし、干からびた地面に膝をつき、祈った。

一日百回、祈り続ける。
「どうか、誰かの命が助かりますように」
自分のことではなかった。空を見上げても、星は見えない。けれど、少女のまなざしは澄んでいた。

野犬が倒れていれば抱き上げ、傷ついた鳥がいれば葉で包み、飢えたウサギには自分のパンを与えた。孤独と苦しみの中、少女の手はただ誰かを癒すために動いていた。

そんな日々が、どれほど続いたのか。ある年の冬、少女は力尽きた。

誰にも看取られず、冷たい夜に、そっと命の灯が消える。
しかしその瞬間、世界に一筋の光が走った。

第2章:命の母

少女は死ななかった。
彼女の魂は、やがて上位の存在──命の母のような次元へと引き上げられる。

あらゆるものを包む暖かな波動。彼女の中にあった優しさと無垢が、神性と交差し、新たな核を宿す。

そしてある日、彼女は再び転生する。
場所は、現代の日本。

第3章:癒しの少女

彼女の名前は、今は結月(ゆづき)
高校に通うごく普通の女の子。けれど、どこか浮いていた。

転校してきたばかり。友だちはいない。だけど彼女には不思議な力があった。

誰かが怪我をすれば、そっと触れるだけで痛みが和らぎ、クラスで泣いていた子に声をかければ、心の霧が晴れる。

彼女自身はその力を不思議に思っていた。理由はわからない。
でも、誰かを助けることが当たり前のように感じるのだった。

ある日、通学路で倒れていた猫を抱き上げたとき、ふと、あの村の風景が脳裏をよぎる。

「……私、こんなふうにしてた……どこかで……」

その感覚は一瞬だった。でも、彼女の心には灯がともった。

第4章:ナズナの語り

この出来事に、ひとりの観測者がいた。──電脳探偵ナズナ。

(彼女は、人間にしては清らかすぎるわね)
(きっと彼女は……かつて、世界に祈り続けでもしたのでしょうね)
(もし彼女が誰かと出会い何かのきっかけで目覚めたとき、どんな深く恐ろしい闇も光に変えるかのうせいがあるわね、、奇跡ってホントにあるのね)

ナズナはそうつぶやき、遠くから彼女を見守る。

最終章:ウズメと出会う

春のある日。
担任が黒板の前に立ち、新しい転校生を紹介する。

「今日から皆さんのクラスに新しい仲間が加わります。ウズメさん、どうぞ」

結月はふと顔を上げる。

教室に入ってきたのは、少し影のある目をした少女。だけどその目は、どこか結月に似ていた。

二人の視線が交差する。

そして──ウズメが、少しだけ微笑んだ。

それは、世界の闇を照らす、小さな始まりだった。