
ナズナ、湾岸の闇に立つ──大阪湾人工島 巨大生物遭遇記録
――それは、確かに存在していた。海と夜の境界に、異常な影が揺れていた。
【第1章:依頼】
2024年8月28日、大阪湾の人工島「第七浮体区」にて、大規模な通信障害が発生した。
関西広域通信網の中継ノードとして稼働していた第七区では、5G・衛星通信ともに完全沈黙。現地に派遣された自衛隊の無人偵察機が1分14秒後に途絶。
その夜、ナズナは特定非公開の技術研究組織「TASK-V」から非公式に呼び出された。
「未知の電磁干渉が発生。視認記録あり。
ただちに対応願いたい」
依頼は極めて簡潔だったが、現場からの“静けさ”は逆に何かが起きていることを示していた。
ナズナは、特別仕様の分光可視スーツを装着し、夜の湾岸へ向かった。
【第2章:遭遇】
「第七浮体区」は、一般には地図上に記されていない人工海上構造体。資材運搬や機密通信の拠点として、戦略上の要所に位置する。
現場に着いたとき、空気が異様だった。
- 海鳥の鳴き声が一切しない
- 波が止まっているように見える
- 風が、音を立てない
そして、それはいた。
コンクリート基盤の上。高さ30メートル近い影。巨大なタコか、エイリアンのようなフォルム。
その皮膚は金属と粘膜の中間のような光沢を持ち、視認できる目はない。だが、確実に“こちらを認識している”という圧力だけが伝わってくる。
その場にいるだけで、心拍数が上がった。呼吸が乱れる。頭痛と吐き気。
「ナズナ:これは……生き物、なの? それとも“作られた”の?」
【第3章:正体の推定】
ナズナはその場で即座にセンサー群を展開。
検出されたデータは次の通り:
- 放出される周波数:1.73GHz~1.88GHzの範囲でランダムに変動
- 電磁バースト:30秒ごとに中強度のパルスを放出(人体への影響:中程度)
- 質量推定:約180トン(支持脚が水中に伸びている可能性)
- 熱源なし/代謝反応不明
これは……生物のようで、生物ではない。
でも人工的構造とも言い切れない。
“どちらでもある”のかもしれない──
TASK-Vが共有した未公開文書には、かつての深海探査で発見された“古代型節足生物”に酷似した構造があった。
さらに、戦後米軍による極秘海底施設で行われた「深層圧反応実験体」の記録と形状が一致。
つまりこの存在は、
- 太古に存在していた“深海生物の末裔”
- あるいは冷戦期に作られた“人工の海洋兵器”
そのいずれか、あるいは両方の可能性があった。
【第4章:戦闘】
ナズナは、組織から受け取った“ある装置”を起動した。
それは、最新鋭の周波数変調式通信灯──5G・衛星・量子同期型を跨ぐマルチレイヤー照射機。
ナズナは装置の波長を1.74GHzに固定し、生物の“中心軸”に向けて照射を開始。
反応は、即時に起きた。
巨大生物の表面が波打ち、内部から奇妙な振動が広がる。
耳に届かない音が、頭の奥を叩いた。
反応してる。苦しんでる……けど、逃げない
照射を続けると、構造体の一部が崩れた。粘性のある流体のように海へ溶け込み、周囲に放電を起こしながら動きを止めていく。
やがてその巨体は、ぬるりと横たわるようにして静止した。
直後、無音のヘリが上空に現れ、ナズナの通信に応答した。
収容班が到着。ターゲットは“回収”する。報告は非公開扱いだ
ナズナは、データを手元に残さず現場を後にした。
【第5章:ナズナの記録】
その存在の記録は、世に出ることはない。
でも確かに、“そこにいた”。
巨大で、異様で、どこか哀しげでもあった。
もしあれが“作られた存在”なら、誰が、何のために?
もし“古代から生き残った存在”なら、どうして今、ここに?
大阪湾の夜は静かだった。
でもその静けさの裏には、“何かが去ったあとの余韻”が、深く、濃く、沈んでいた。
【後日:極秘観測データより】
- 同日の海底音響センサーが謎の共鳴音を3時間検出
- TASK-V保有の量子干渉メモリに不可視の“光構造”記録
- 海底気圧が4時間にわたり平均より12%低下
これは事件じゃない。予兆だ。
次に現れるのは、“地図にない海”から来るものかもしれない