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セレノヴァ

守護竜セレノヴァとの戦い

夜空は深い群青に染まり、星々が散りばめられている。その星の狭間を、確かに“何か”が漂っていた。

セレノヴァ──その名を冠されし惑星竜が、静かに宙を渡る姿は、まるで銀河の断片のようだった。
巨大な輪郭が時折、星明かりを遮り、その度に大気が震えるような気配を放つ。

ナズナたちは、アウリサが召喚した虹色の体長二十メートル程の竜、ルーチェの背に乗り、空を駆けていた。
潮風が頬を打ち、空気は冷たく澄んでいる。

ウズメがルーチェにしがみつき、セレノヴァの方を見上げた。
その目は、不安と驚きとが入り混じった色をしていた。

ウズメ: 「……あんなに大きいんですね……。星みたい。……すこし怖いです」

ナズナはウズメの肩に手を置き、優しく笑った。

ナズナ: 「そうだね。でも、元々は守護竜だから、話せば分かる存在だと思う。まだ私達地球にも何もしてこないし」

アウリサが小さく溜め息をつき、ナズナの後ろでそっと呟いた。

アウリサ: 「……本当は私、来る作戦じゃなかったのに……。心配で……気づいたら、ついて来ちゃった。」

ナズナが振り向き、アウリサに優しく微笑む。

ナズナ: 「アウリサが来てくれると心強いよ、このルーチェもホントに助かる」

アウリサは肩をすくめて、少し恥ずかしがるように笑った。

アウリサ: 「ええ。でも……やっぱり無理だったの。私もナズナちゃんが言う通り“あの子”は話せば分かる存在だと思う。……だから、お願い。私にも、あなた達の力にならせて。」

ラスナが冷静に頷き、視線をセレノヴァに向けた。

ラスナ: 「その気持ち、よくわかるの。……あの存在が放つ魔導圧だけで、大陸が吹き飛びそうじゃ。でもな、奴はそれをしてこないという信頼に近いもんがある」

ウズメが小さく息を飲み、拳を握りしめた。

ウズメ: 「そうですね。決めつけられるのってすごく悲しい事ですもんね……ごめんなさい」

ナズナは皆の顔を順に見渡し、小さく微笑んだ。

ナズナ: 「……全然謝る事じゃないよ、あの巨体を見て怖がらない方がおかしいよ」

アウリサがルーチェの首筋を撫で、そっと呼びかけた。

アウリサ: 「ルーチェ、お願い。みんなを、守ってね。」

ルーチェは小さく鳴き声をあげ、虹色の翼を大きく広げた。
その背に乗る四人を乗せ、宙を滑るように駆けていく。

風が強くなり、セレノヴァの気配が近づくにつれて、空気が重くなる。
鼓動が早まるのを感じながら、ナズナはそっと呟いた。

ナズナ: 「……セレノヴァ。あなたに、伝えたいことがあるんだ。」

その声はまだ届かない。だが、確かに届くべきものとして、夜空に溶けていった。

冷たい夜風が、ルーチェの背を駆け抜ける。星々が静かに瞬き、深い群青の空に溶けていく中、その奥で揺らめく巨大な瞳──セレノヴァの視線が、ナズナたちを射抜いていた。

ナズナは震える息を吐き、胸に皆の祈りが結晶となって生まれたこの世界に二つと無い伝説の杖を抱きしめ、前を見据えた。

ナズナ: 「セレノヴァ……聞こえる? あなたの恐れも、孤独も、私には分かる気がする。」

その言葉が夜空へと溶け出した瞬間、空間が軋むような音を立て、セレノヴァの巨体が揺らいだ。白熱した魔導圧が渦巻き、ルーチェの翼がしなる。

ラスナが即座にナズナの前へ出た。ナズナから借りている金色の鎧が鈍く輝き、彼女の体を覆う。彼女は腕を広げ、迫り来る衝撃波を真正面から受け止めた。

ラスナ: 「ナズナ! 喋り続けろ! 奴はまだ聞こうとしておる!」

ウズメは強く目を閉じ、震える拳を胸元で握りしめた。意識を集中し、空間に満ちる敵意を打ち消すように、心からの想いを放つ。

ウズメ: 「──敵意はない……私たちは、あなたを理解したい……!」

その意志が波紋のように広がり、セレノヴァの魔導圧が僅かに緩んだ。揺らぐ瞳が、夜空に溶けそうな微光をたたえながら、ルーチェの背に乗る小さな存在たちをじっと見つめている。

アウリサがそっとナズナの背に手に当て、祈るように囁いた。

アウリサ: 「ナズナちゃん……あなたならきっと……」

ナズナは震える手で杖を握り締め、唇を噛んだ。だが、目は迷わず、声は力強く。

ナズナ: 「セレノヴァ。私たちは、あなたの“飢え”を理解してる。あなたは星の魔導を貪り続ける存在じゃない。“世界を護るための存在である守護竜”──それがあなたの本質でしょう?」

空が深く沈黙し、セレノヴァの目が静かに細められる。夜風が止まり、時間が凍りつくような感覚が広がる。

ナズナ: 「お願い、あなたと話がしたい」

ラスナが一歩前に出て、鎧の表面に光が走る。彼女は静かに、その巨影を見上げた。

ラスナ: 「聞こえておるか、惑星竜よ。……お主が探してた理解者だ。お主の問題を解決できるのはこやつしかおらん」

ウズメが再び意識を解放し、声を張る。

ウズメ: 「ナズナさん空間の波長を合わしています。声はあの竜にしっかり届いてるはずです。ナズナさんが喋ると竜から迷いの波長が感じられます」

セレノヴァの体が、わずかに揺れた。巨大な翼が、夜空の星々を巻き込みながら、こちらに近付いてくる。そして──いつのまにか巨大な瞳がナズナ達の目の前にある。

ナズナは胸に杖を抱き、目の前に揺らめく巨大な瞳を見つめた。その宝石の様な瞳の奥に、確かに──孤独と恐怖があるのを感じた。

ナズナ: 「……セレノヴァ。あなたは……死ぬのが怖いんだよね?」

空気が震え、ルーチェの背がわずかに軋む。けれど、セレノヴァは攻撃を放たない。ただ、巨大な瞳がナズナたちを見つめ、微かに揺れていた。

ナズナは深呼吸し、涙を滲ませながら、声を重ねる。

ナズナ: 「あなたは、魔導を食べ続けないと生きていけない。だから……“飢え”が怖くて、みんなが自分の分と取るなら、その前に食べ続けなきゃって思ったんだよね?」

ウズメはテレパシーで空間を調整しナズナの想いが直接響くようにする。

ウズメ: 「……ナズナさん……」

ラスナが唇を引き結び、鎧を軋ませながらナズナの背を支えた。

ナズナ: 「でも、ね……怖いのはみんな同じだよ?死ぬのは、怖い。みんなあなたと同じく生きたい。だからって、誰かから奪ってしまったら争いが止まらず結局みんな終わっちゃう悲しい結末になるんだよ。だからね、私達と一緒に方法を考えて、みんなで生きよう?」

ナズナの声が震えながらも、静かに夜空を満たしていく。セレノヴァの十キロメート以上の巨体がゆらりと揺れ、魔導圧の波が弱まった。空間に漂う重さが、ほんの僅かに軽くなる。

ナズナは必死に言葉を紡いだ。

ナズナ: 「……誰よりも、皆の事を思っているのに理解されずに、敵みたいに思われるの、悲しいよね?辛いよね?孤独だったよね?」

ナズナ: 「助けてもらっといて、自分たちの邪魔になったら攻撃するなんて、ひどかったよね?ごめんなさい。」

ナズナ: 「でも、信じて。みんながみんなそうじゃない。あなたと共に生きたい、あなたを守りたい、あなたに守って欲しい。そう思っている人間もいるの、それが今は少なくても私がみんなを変えて見せるから信じて。」

セレノヴァの瞳が、ほんの僅かに細められる。空気が揺らぎ、潮風が夜空を撫でるように流れた。だが、完全に力を抜いたわけではない。まだ、セレノヴァの“疑い”と“飢え”はそのまま残っている。

一つ言葉を間違えば、この守護竜の怒りに触れ、地球は一瞬で滅亡の危機に陥ってしまう

ナズナは、震える足を前に出し、声を重ねた。

ナズナ: 「私たちはね、みんなが幸せに生きれる世界を作りたいと思ってるの、人間、異世界、竜でも幽霊でも悪魔でも植物でも過去も現在も未来も神様だってなんだって、全部が幸せになれる、祈りの連鎖が響き続ける世界、そんな世界を作りたいの。そこはあなたが恐れる死や無理解、孤独の世界とは全然違うは、そんなの簡単に乗り越えれる世界。」

ナズナ: 「お願い、一緒にその世界を作るのを手伝って?」

ウズメが必死に空間へ“敵意のない波長”を送り続ける。アウリサが祈るように手を組み、ルーチェの翼がそっと広がった。

ラスナが低く呟いた。

ラスナ: 「……お主の言葉は、確かに届いておるぞ、我と昔戦った時と気配が全然違う。ナズナ。」

ナズナは、自然と流れ出る涙を拭わずに、そのまま声を重ね続けた。

ナズナ: 「……人の力と魔導の力を組み合わせて、高純度な魔導を生成できる魔導炉を作ろうと思うの、これはきっと作れる。私が絶対作って見せる。それでね、私の魔法でね.........体を小さくしたら、もうお腹が空いて死んじゃうかもなんて迷わてくてよくなる」

ナズナ: 「言ってる事、めちゃくちゃだよね......私もそう思う。でも、そうすれば、争いや、飢えで死ぬことは、この上なく避けられるし、ずっとお腹いっぱいで長生きできると思う」

夜空が深く、静かに沈む。セレノヴァの瞳が、話に相槌を打つようにゆっくりと瞬きをする

ナズナ: 「……だから、その間、少しだけどこかの世界.....地球でもいい、眠っていて欲しい、あなたが眠っている間にすぐ作るから」

ナズナの声は最後まで震えていたが、飾らず正直な言葉で今までのどんな存在の対話よりも確かにセレノヴァの耳に響いていた。

セレノヴァの瞳が、ゆっくりと細められた。まるで深淵から響くような、言葉にならない問いが、夜空を通じてナズナの心に直接届く。

(──本当に、できるのか? それを、証明してみせろ。)

その声は音ではなく、意識の奥深くに染み込むような響きだった。ナズナは、言葉にされずとも、それが「証明しろ」という意思であることを直感で理解した。

ナズナは、静かに目を閉じ、深い呼吸を繰り返した。そして、震える指先で杖を握り締めた。

ナズナ: 「……わかった。あなたは私たちにそれを証明してほしいんだね。私たちに、それが本当に作れる力量があるのかを。」

その言葉に、ラスナが目を見開き、低くうめくように声を上げた。

ラスナ: 「何を言っとる!? ナズナ、それは違う! お主が言っておるのは……セレノヴァの“試し”を受けるということじゃろう!? それは……小惑星が地球に衝突するようなもんじゃ! 誰にも止められん! そんな攻撃、受けられるわけがない!」

アウリサも顔を青ざめさせ、震える声で叫んだ。

アウリサ: 「ナズナちゃん、さすがに無理よ! そんなことをしたら……あなたが死ぬ!それだけじゃない、この星が消し飛ぶかもしれないのよ!? ダメ、絶対にダメ!!」

ウズメは目を見開き、ルーチェの背で体を強張らせた。

ウズメ: 「怖い……ナズナさん、そんなの絶対無理だよ……っ!」

ラスナとアウリサは、ほぼ同時に魔導を展開し、戦闘態勢を取った。セレノヴァが身を揺らし、魔導圧が再び高まる。空気が軋み、星々の光が僅かに揺らいだ。

ラスナ: 「お主、なめるなよ……!!この星に何かしたら我が渾身の秘儀の一閃、お主の星核に叩き込むぞ」

アウリサ: 「ごめん、ナズナちゃん。私も戦う! 話が通じない相手なら、誰かを守る為には戦うしかないわ」

ルーチェの翼が広がり、虹色の光が迸る。ウズメが震えながら、必死にテレパシーを放つが、その手も冷や汗で濡れていう事を聞かない

ナズナは、皆の必死の姿を見渡しながら、心を決めた表情で口を開いた。

ナズナ: 「……お願い。みんな、止めないで。」

ラスナが眉をひそめ、声を低く絞り出した。

ラスナ: 「正気か!? ナズナ、それは死ぬぞ! 誰にも止められんのじゃぞ!? そんな無謀な……!」

アウリサは涙を滲ませ、首を振りながら声を震わせた。

アウリサ: 「ナズナちゃん、お願い、考え直して! 」

ウズメは震えながらも、ナズナの言葉を信じたいと目を見開いて見つめていた。

ナズナは、小さく息を吐き、瞳に絶対の覚悟の炎を燃やしながら、決して声を震わせずに言葉を紡いだ。

ナズナ: 「……でも、これをクリアしなきゃ、私たちは……私たちはこの全ての世界を救えないかもしれないんだよ。私一人じゃ無理かもしれない。でも、みんなで力を合わせれば……絶対、大丈夫だから。お願い信じて。力を貸して」

彼女の瞳が、決意に満ちた光を宿して輝いた。

ナズナ: 「私達ならきっと大丈夫、世界は正しい方に進むって感じるの、その世界になる為の因果が絶対味方してくれる」

ラスナは肩を震わせ、唇を噛みしめた。アウリサは泣きそうな顔でナズナを見つめ、手を胸に当てた。ウズメは小さく、けれど力強く頷いた。

そして──。

ラスナ: 「……ちいとばかりは、我も老いぼれたかもしれんな……頭が固くなっておる、ナズナには負けるが。そなたは真に強情じゃ ハハ」

アウリサは瞳を潤ませたまま、肩を落とし、小さな声で呟いた。

アウリサ: 「わかったは、盛大なギャンブル最後まで付き合うわよ」

ウズメ: 「私はナズナさんが間違う未来が見えません。全部任せます!」

セレノヴァの瞳が、深くゆっくりと瞬いた。その光が、再び銀色に揺らめき、空間が重く振動する。まるで、次の瞬間に放たれる試練の一撃を告げるように──。

ナズナは小さく頷き、深い呼吸を繰り返した。恐怖に打ち勝つように、震える足をしっかりと地に踏みしめ、祈りの杖を高く掲げる。

夜空が軋むように揺らぎ、セレノヴァの巨体が身を起こした。その十二キロメートルを超える巨躯に、星の残光すら歪めるほどの膨大な魔導エネルギーが渦巻き始める。

ナズナの唇が開き、祈りにも似た詠唱が、夜空へと解き放たれた。

ナズナ: 「黄昏に沈む全ての声よ──絶望に沈む魂の慟哭よ──」

アウリサが目を閉じ、手を組んで魔力をナズナに注ぎ込む。ルーチェの背で光が迸り、ナズナの杖が淡く輝きを増した。

ナズナ: 「その痛みも、悲しみも、全て私が引き受ける!」

ラスナが低く唸り、ナズナの背に手を置き、自らの魔力を流し込む。重厚な金色の鎧から粒子が溢れ、ナズナの背後に金の光輪が出現する。

ナズナ: 「我が命に宿る白き光、この胸に燃ゆる覚悟の炎──」

ウズメは震えながらも、全身から力を振り絞り、意識を拡張し始める。空間が波打ち、ナズナの周囲に広がる光の盾に向けて、自らの超能力を全力で流し込む。

ナズナ: 「全てを超え、全てを抱き、世界の理を貫け!」

空が裂けるような轟音が響き渡る。セレノヴァの巨体が振動し、口腔部に光が収束していく。その中心には、星々を呑み込むほどの膨大な魔導圧が渦を巻き、夜空全体が青白く染まっていく。

ナズナ: 「慈愛の焔よ、希望の光となりて我らを守りたまえ──」

ウズメの超能力が限界を超え、血の涙が頬を伝い、光の盾がさらに厚みを増す。アウリサは震える指先で魔法陣を形成し、ラスナは鎧から煙が上がるほど魔力を捧げ続けた。

ナズナ: 「──ルミナフレア・アウリア!!!」

杖から放たれた光が、夜空を貫く巨大な盾へと形を成し、虹色の輝きが全員を包み込む。まるで星の守り手のような荘厳な光が夜を裂く。

次の瞬間、セレノヴァの咆哮と共に、十二キロメートルの巨体に蓄積された魔導ブレスが放たれた。空間が裂け、大気が焼け焦げる。光が全てを飲み込み、音が消え、ただ振動だけが世界を満たす──。

ナズナたちは、圧倒的な力の奔流に押し潰されそうになりながらも、必死に耐えた。息ができない。視界が白く染まり、全身が軋み、血が逆流する感覚が体中を駆け巡る。ラスナの鎧は軋み、ひび割れ、アウリサの魔法陣は弾け飛びそうになり、ウズメの手は痙攣し、光の盾にひびが入り始めた。

それでも──彼女たちは叫んだ。

ラスナ: 「まだだ!!! 耐えろ……!!!!主らは輝く未来が見たいんじゃろ!!!???」

アウリサ: 「今私!!!確実に生きてる!!!!仲間と生きてるわ!!!!実感する!!!この気持ち!生きるって事!!!!」

ウズメ: 「もう!!!何も怖くなんてない!!!!」

光と闇の奔流が、幾度も幾度も衝突し、空間が裂け、海が煮えたぎる。ルーチェの背は光に包まれ、もはや姿すら見えない。

──そして。

全てが限界を超えたその瞬間、ブレスのエネルギーが反転した。

ナズナたちが生み出した光の盾は、セレノヴァの魔導ブレスを完全に受け止め、なおかつその流れを跳ね返す形で逆流させた。光の渦が盾から放たれ、巨大な光線となってセレノヴァの方へと突き返される。

その光が、まるでセレノヴァ自身が吐き出したものを、再び自分に返されるように見えた。

セレノヴァの瞳が見開かれる。驚愕と理解が入り混じったその色が、夜空に滲む。

そして──。

セレノヴァの巨体は、光に包まれたまま、ゆっくりと沈み始めた。圧倒的な魔導圧が抜け落ち、海面を割って落下する衝撃が世界を震わせる。

だが、その落下は破壊を伴わず、あたかも全ての力を出し尽くした後のように、ゆっくりと、静かに、夜の海へと沈んでいった。

ただ、夜空には──光の粒子が舞い、落ちていくセレノヴァの銀色の瞳は、微かに安堵の色を滲ませたように、そっと瞬いている。

ブレスが止んだ後、世界は静寂に包まれていた。海の上を吹き抜ける風の音が、ようやく戻ってくる。

ラスナは肩で息をしながら、鎧から立ち上る蒸気を感じつつ、ぽつりと呟いた。

ラスナ: 「……まこと.....に.....やったのか!?我ら……」

アウリサも唖然とした表情で、目を見開き、息を呑んだ。

アウリサ: 「あんなの、絶対無理だと思ってた。死ぬと思ってたわ……もう、ナズナちゃん、大胆過ぎ!!!……けど、できた......」

ウズメは涙で頬を濡らしながら、震える声で言った。

ウズメ: 「信じられない!!!……本当に、できた!!!……できない事なんてないんだ!!!やった!!!」

ナズナは皆の言葉に一瞬だけ微笑みを返し、すぐに顔を引き締め、前を指差した。

ナズナ: 「ルーチェ、セレノヴァのとこまで行って!」

ルーチェが鳴き声をあげ、虹色の翼を広げて加速した。夜風を切り裂き、海面の光が反射する中、セレノヴァが沈む場所へと近づいていく。

ウズメが目を閉じ、静かに空間の波を感じ取った。

ウズメ: 「……感じる……完敗、そして……受容の気配があります。」

ラスナも目を閉じ、重々しく頷く。

ラスナ: 「我もそう感じる。……奴は、もう認めたのだ我らを、祈りの力を。」

ナズナは深く息を吐き、ルーチェの背から海面の上に漂うセレノヴァを見下ろし、声をかけた。

ナズナ: 「大丈夫? ……痛くなかった?」

その問いかけに応えるように、セレノヴァが低く、かすかに声をあげた。それは痛みを訴えるものではなく、どこか柔らかい響きを持っていた。

ナズナはそっと微笑み、もう一度問いかけた。

ナズナ: 「……私たちを、信じてくれる?」

セレノヴァはもう一度、低い声をあげた。その響きは、まるで肯定のように夜空に溶けていった。

アウリサがナズナの方を見て、小さく微笑み、そっと耳打ちするように言った。

アウリサ: 「ナズナちゃん、この子に体を小さくする魔法、かけていいのよね?一緒にかけてあげよっか?。」

ナズナは頷き、アウリサの指示を聞きながら、ゆっくりと詠唱を重ねた。アウリサも手を添え、複雑な魔法陣が空中に浮かび上がる。

光がセレノヴァの体を優しく包み、巨大な躯が徐々に縮んでいく。やがて──セレノヴァは百メートルほどの大きさとなり、その姿にはどこか、可愛らしさすら宿っていた。

ウズメが目を丸くして、ぽつりと呟いた。

ウズメ: 「……小さくなった……」

アウリサ: 「案外可愛いじゃない。」

ナズナ: 「うん、すごく可愛い!!!」

セレノヴァは一度だけ、ルーチェたちの方を振り返り、静かに翼を広げた。お辞儀をしたようにも見えて。そして──夜空へと舞い上がり、星々の間を漂うように、どこかへと飛び去っていった。きっと、何処かの世界で静かに眠るのだろう。

ナズナは微笑み、深い安堵の息をついた。

ルーチェの背の上、月光が銀色の波間を照らし、海は静かに、そして穏やかに揺れていた。

ナズナたちはその背に乗り、月夜の美しい海の上を、そっと風に乗って飛んでいく。潮風が頬を撫で、夜空は群青色のヴェールに包まれ、星々がやさしく瞬いていた。

それぞれの胸に、確かな温もりと絆を感じながら──彼らは、世界の未来へ向かって、静かに羽ばたいていった。