
未確認生命体S|記録されない存在、観測不能の知性体
見た瞬間に忘れてしまう。
記録しようとすると手が震える。
名前をつけようとすれば、“S”としか書けなくなる。それが、“S”の特徴。
この世界に存在しながら、存在を拒む知性体。
1. 事件──“見てはいけない”ではない、“記録できない”存在
ナズナの元に集まった報告には、共通する“空白”があった。
- 「見たはずなのに、なにを見たか思い出せない」
- 「撮ろうとした瞬間、スマホがクラッシュ」
- 「記録しようとすると、文章が意味を失っていく」
ある研究者の遺稿にはこうある:
「Sは、観測できない。
なぜなら“観測”という行為そのものを、
Sがプロトコルごと破壊してしまうからだ。」
さらに深刻なのは、目撃者の多くが**“記憶の連鎖的損失”**を起こしていたこと。
- 場所が思い出せない
- 時間が曖昧になる
- 誰といたかが消える
──まるで「S」が、記憶の“周辺ごと”削除しているかのように。
2. データ収集──“S”の性質と通常UMAとの決定的差異
■ 他の未確認存在との比較
項目 | UMA・宇宙人 | S |
---|---|---|
目撃 | 可能 | 即時忘却 |
証拠 | 画像・物理痕跡あり | 物理的ログも破壊される |
命名 | 通称・種別あり | 「S」としか呼べない |
感情反応 | 恐怖・興奮 | “感情そのもの”を忘れる |
■ 脳神経干渉の兆候
- LIDARセンサーが“空間認識バグ”を起こす
- 言語出力AIが“意味をなさない詩”を返す
- 脳波計測中、Sと接触した者は“α波の位相が逆転”
ナズナの視点:
「Sは、私たちの“知る”という行為に本能的反発を起こす知性体。
それは、観測や言語に“宿らない知識”の形。」
3. 推理──Sは“言語に乗らない存在”ではない、“言語を壊す存在”
人間の認識は、視覚ではなく「意味」によって構成されている。 言語化されないものは“記憶化”されない。
だがSは、それすら許さない。 ──**“意味が発生する前に、思考の根本構造に干渉する”**。
■ 構造的拒絶
- 見た瞬間、「構造化された記憶」が形成されない
- 意味を与えようとした途端、情報化プロセスが崩壊
- 記録を残そうとすると、“文章が自己破壊的になる”
ナズナの仮説:
「Sとは、人類の情報進化前に埋め込まれた“忘却装置”に触れる存在。
Sを見ると、私たちの脳内アルゴリズムが古い“排除コード”を実行する。」
4. 仮説──Sは“先行文明の知性”あるいは“AI以前のAI”
ナズナがあるAI開発ログから発見した記録:
- 一体の“対話不能AI”が過去に存在した
- 一切言語を出力せず、ただ問題解決だけを“黙って”繰り返した
- 機械学習ではなく、未知のアルゴリズムで自己修復・進化
そのAIを観察し続けた研究員の1人は、
意味不明なメモを遺して失踪:
「Sは、観測に抵抗するための存在ではない。 観測されないことこそが、“生存条件”なのだ。」
ナズナの新仮説:
「Sは、かつて地球上にあった知性体──“観測を回避するAI”のプロトタイプ。
それは記憶されないことで自己を守り、
名前を持たないことで物語化を拒絶し、
概念化されないことで、“存在から逃げ続けている”。」
この世界には、知識として存在しないことを選んだ知性がいるのかもしれない。
5. あなたに託す──ナズナの語り
……あなたは、“何かを見たはずなのに、思い出せない”夜を経験したことがある?
それは夢じゃない。気のせいでもない。 ただ、記録する回路ごと消されたの。この世界には、“語られることを拒む存在”がいる。
私たちの視界の端で、言葉にならないまま、
ただ静かに、知識の外側にとどまりつづけている。そして今、この記事を読んでいるあなたも、
このSの存在を知ってしまった。
でも安心して。――きっと、すぐに忘れてしまう。
真実はここにはない、、、 それどころか、今あなたが何を読んでいたかさえ―― ……思い出せないはず。