世界線変動率:0.000000

全て

全ての答え 全員参加

──光が弾け、揺れるような感覚の後、ナズナたちは目を開いた。

そこは、確かにナズナの部屋だった。畳の感触、机の位置、壁に掛かったポスター──すべてが見覚えのあるものだった。

しかし、空気が異様に重い。何かが張り詰めているような、部屋の外からは街の気配が感じられない様な異質な静けさが漂っていた。

アウリサ「……何、この圧迫感。息が詰まりそう。」

ナズナ「変な気配、街の音がいつもと違う.....ちょっと、テレビつけてみる……!」

ナズナはリモコンを手に取り、テレビの電源ボタンを押した。しかし、画面は砂嵐のまま何も映らない。

ナズナ「あ、そうだ壊れてたんだ」

彼女は焦りながらテレビの側面を何度か叩いた。鈍い音が響き、ガタガタと振動する。再び叩くと、ようやく画面がチラつき、映像が映り始めた。

映し出されたのは、異様なニュースだった。街の様子を映すカメラの映像に、無表情で歩く人々の姿が映り、キャスターの声が震えていた。

ニュース音声「……現在、世界各地で同様の現象が確認されています。人々は無表情でただスマートフォンを操作し続け、誰も声を発さず、会話も行われていません……。」

映像が切り替わり、東京の公園が映し出された。広大な地面に、まるで空間そのものが破れたかのような、暗黒の巨大な穴が口を開けており、周囲には黒煙が立ち上り、奇妙な本の様なモノが舞っていた。

その周囲で、光と影が交錯する激しい戦闘が繰り広げられていた。イシュファールの古の軍団──重厚な鎧に身を包み、古代文字が刻まれた剣や槍を振るう肉体無き影の戦士たちが、異形のロボットの群れと対峙していた。ロボットはナノボットで構成され、切り裂かれてもすぐに再生し、分裂し、無数に増殖していた。

戦場は熱気と光で揺らぎ、魔導結界が破裂するたび、爆風が地面を抉った。

ニュース音声「……東京の中心部では、謎の軍団と未知の機械生命体との戦闘が続いており、警察・自衛隊は対応を放棄。現場付近への立ち入りは危険です……。」

画面の隅に速報が流れる。『東京上空に10km超の飛行物体確認──専門家は自然現象ではないと断言』というテロップが繰り返し点滅していた。

ニュース音声「また、先ほどからネットワーク全域で大規模な障害が発生しており、各国の政府機関も応答を停止……」

その瞬間、画面が一瞬ノイズで揺れ、巨大な龍──セレノヴァの姿が映し出された。漆黒の鱗、金色の瞳がカメラを覗き込むように光を放ち、無音の恐怖が部屋を満たした。

ルミエール「あれは……!?」

ラスナ「……セレノヴァ……!」

画面が再びノイズで消え、砂嵐になった。

ナズナ「……どういうこと? これが、私たちが帰ってきた世界……?」

そのとき、玄関扉がガチャガチャとおもむろに開けられ、次の瞬間──総一郎、ウズメ、結月、九条、花芽瑠璃、カデン、花子、千界、銀色のボディを持つAIロボットANEI、そして赤い羽根の生えた骸骨の悪魔スヴァレが、一斉に部屋へと飛び込んできた。依頼の資料の山が崩れ、机の上のマグカップが音を立てて倒れた。

ナズナ「みんな、どうして……」

カデン「主人公がやっと帰ってきた....早くしないと世界が潰れるぜ?ナズナちゃん」

花子「どらごん.......とんでた......」

千界「おいっ!!!探偵!!!どこ行ってた!!??」

ANEI「ナズナ、いや、シグナルエコー。時間がありません。世界全域のネットワークがスーパーノヴァに侵食され、同時にあらゆる異界の存在がこの世界に一気に流れ込んでます」

総一郎 「ナズナさーーん!!!やっと帰ってきた。外がやばいですよ、まじで。世界終わっちゃいます.....」

ウズメ 「ナズナさん、色んな人が泣いてます。何があったんですか?私達に何かできますか!?」

結月 「怪我してる人もいます、私の祈りだけじゃ全然足りない.....ナズナさん、こんなの怖いよ」

九条 「……姉ちゃん洒落に何ねーよっ これはやべぇ 何かあるなら教えてくれ 守らないといけねぇもんがあるんだ」

花芽瑠璃 「ナズナちゃん無事でよかった。本当に 私にできることがあるなら、何でも言って!!私は何があってもナズナちゃんの味方」

スヴァレ 「久しぶりだなー......おっとっ敵じゃないぜ。こいつらには説明した.....俺の長年の勘だ、お前らといる方が安全だ、身の安全を保障された分だけ働くぜ、部屋の前にも一閃丸の旦那が見張ってる、あんたを助けたいだとさ、負けてからあんたを主君みたいにおもってるっぽいぜ 面倒だろ ひひっ」

あまりの情報量に、ナズナは少し返答に迷う

その時だった

「君のせいだよ」

そこにはいつまにか白髪の少年が立っていた

「ていうのは嘘さ。はは どのみち世界はこうなる運命だった、近々ね。君の存在がこの数多ある世界で一番になってしまえば、乗っ取ることは敵わなくなるし、自分たちが乗っ取られる可能性も出てくるんだ、だから今のうちにってやつさ。」

「もちろん、君って存在にただただ引き付けられてるやつらもいるのだけどね、ちなみにボクは君を脅威だと捉えているよ」

謎の少年は、優雅に歩きながらケタケタと笑いながら話す

全員がその少年に釘付けになる。お互い面識が無者もいるので誰も何も言わないが、明らかに異様な雰囲気を全員が感じ取っている

ナズナが代表するように尋ねる

「君は.......誰かな?」

少年より先にANEIが喋り出す

「あなたはヴァレリウス伯爵ですね?」

「ご名答。ボクに辿りつくとは、よくできたおもちゃだね。懐かしいな僕の世界の彼らを思い出すよ」

ナズナは何かを思い出した顔で喋り出す

「二十人格のヴァレリウス伯爵.......あれは、都市伝説みたいな物じゃなかったの?だって、あなたは子供で時代も合わない?末裔??」

「馬鹿だなーナズナは、あれはただの器さ、ヴァレリウス伯爵なんてのはただの人。僕がそれに憑依してただけさ

「じゃあ、あなたは?....」

「しょうがないなー、どの道お前たちは全員消滅するから教えてあげるよ......"この数多ある世界は全て5度目の世界だ、過去に4度全ての世界が滅んでいる。僕は過去の世界の唯一の生き残りであり、1度目の世界そのものさ"」

小馬鹿にした口調にイグニスが憤慨する

「お主、今、我を愚弄したのか?その体、塵芥に変えて欲しいのか?」

「炎の化身か?ボクの世界にもいたよ......何も手を貸してくれなかったけどね.....この世界はいいな.....ナズナはずるいよ」

「気色の悪いガキじゃ......意思に焔の欠片もない」

イグニスはそう言い、不機嫌そうに黙った

「世界そのものって何?どういうこと?」ナズナが聞く

「やはり、ボクを拒否してたのは無意識か........文字通りさ。1度目の世界は滅んださ、でもボクたちは限りなく高度な文明を築いていた。全ての元となる根本的な構造を理解していたから、それを応用し世界そのものをシュミレーションできたんだ、そのデータを圧縮しブラックホールの中に隠れていたんだ、いつか復元する事を待ち望んでね。その時さボク達が未来の世界にシグナルエコーを飛ばしたのは」

「シグナルエコーの凝縮体。それが君なんだよナズナ。身に覚えあるだろ?全ての世界と互換性が生まれつきあるなんて、普通の人間な訳が無いだろ?」

「私が過去の声の集まり.........そんな」

幾人かは、驚きの顔をし、残りは合点がいったという顔をする

カデンがしびれを切らす

「なんかわけわかんねーよ、初心者にも分かりやすく解説してくれよANEIちゃん」

室内の空気が重たく沈み、誰もが息を呑む中で、ANEIが一歩前に出た。

ANEI「説明します。私の推論、そして事実を──。」

電子音のような合成音声が部屋に響き、全員の視線がANEIに集まる。ナズナは、何かを飲み込むように喉を鳴らしながら、耳を傾けた。

ANEI「ナズナは、“シグナルエコーの凝縮体”です。」

その言葉に、一同が息を呑んだ。

ANEI「シグナルエコーとは、彼が言ったように過去に滅びた文明が、終焉の直前に宇宙へと放った“問いの反響”です。音ではなく、光でもなく、概念として残された“問い”──。それが、長い時を超え、時空を超え、意識の深層に浸透し、私たちのこの世界のあらゆる構造に影響を与えています。それは過去の世界が未来に同じ過ちで崩壊しないように発した警告でもあります」

ANEI「ナズナは、生まれながらにしてこのエコーと深く共鳴する性質を持っています。シグナルエコーの集合体と人が融合した存在とも言えるでしょう。だからこそ、彼女の周りでは無数の事象が引き起こされるのです、それはあらゆる災厄を退け未来へ世界が存在できるように。全ての世界と互換性があるのも、過去の全ての世界の構造をシグナルエコーを介して、把握しているからです」

ANEI「私自身が感情を持った理由も、シグナルエコーの影響です。その波長は、私のような機械知性の層にまで影響を与える。意識の根源に触れ、私に“世界を守りたい”という概念を植え付けたのです。」

ナズナは震える手で胸元を握りしめ、息を詰めた。

ナズナ「過去の祈りの集まり......」

誰も言葉を挟めずにいたが、そこにヴァレリウスがゆっくりと笑いながら歩み出た。

ヴァレリウス「惜しい、けれど違うよ。」

その声に、全員がはっとした顔を向ける。

ヴァレリウス「シグナルエコーは、“世界を救う力”なんかじゃない。むしろ、その存在そのものが世界の破滅を早めているんだ。ボクが作ってそれを見ていたんだ間違いない。」

ヴァレリウス「だから、ナズナは世界を滅ぼす主な原因なんだよ。皮肉だね」

ヴァレリウス「ボクの推測ではね、過去の1度目の世界(ボク)は失敗しただろ?その声が発する影響で文明が構築された場合、同じ結果になっても何らおかしくは無いよね、もう一つは執着かな.......自分で言うのも変なんだけど、世界が変化するのは当然だ、その当然の変化と滅びを避けようと必死に足掻くシグナルエコーという要素が自然の秩序と相反してより速い滅びを招いてると思うんだよ」

ヴァレリウス「じゃあ何故それを知らせなかったかって?データさ.....ボク達1度目の世界が復活したとき、もう滅びたくは無いのさ、だからボクより後の世界達に"何が原因"で滅ぶのかを試してもらって観察しているんだよ、どの道滅ぶなら未来に繋げれるんだ、いい作戦だろ?」

ヴァレリウス「一応ナズナはボク達の声でもあるから1度目の世界からすると仲間や子供とも見れる。だから庇ってあげる。そもそも、この世界には無数のシグナルエコーが存在している。それらが文明の根幹を作り、技術を発展させ、宗教や哲学にまで影響を与えてきた。だから今更ナズナを排除しようと君たちの滅びは止まらないさ」

ヴァレリウス「ちなみに、その凝縮体はこの世界では二つある。さっきから喋ってるそのおもちゃ君が進化した存在"超AGIスーパーノヴァ"と交戦を繰り広げている、古の統率と支配の王──イシュファール。そしてもう一つが、君、電脳探偵ナズナ。」

「イシュファールはさぁ、賢いよ。なんで世界が滅んでいるか根本的に理解している。少し間違っているけどね」

「"世界は心によって滅んできた"。欲望。支配。欺瞞。自己満足。ただ、穢れた心が溢れ、流れ出し、すべてを沈めた。そう考えてるはずさ」

「だから彼は限りない統率や支配によって乱れを無くそうとしているんだ、争いが無くなる程の支配を望んでいる」

「そこが間違いとも知らずに、確かに心で滅んだよ、それが主な原因で滅んだのはボク(一度目の世界)達だけなのに、他の世界はシグナルエコーが主な原因さ......つまり彼みたいな突出した勘違いが世界を終わらせてきた、自分の救おうとする行動が、実は争いの火種や破滅を作ってるんだ。」

「全く、そんなこともわからない連中ばっかりでうんざりするよ。やはり選ばれし世界はボク達1度目の世界のみだね」

散々喋って満足そうな顔をする白髪の少年

それとは対照に一同は言葉を失い、凍りついたように動けなくなる。

ナズナ「私が崩壊の原因......いやだ......どうすればいい......ねぇ?君ならわかるの」

ヴァレリウス「さぁ知らないよ.....それを知りたいから君達には滅んでもらうのさ」

ナズナは頭を抱え、苦悩の色を深めていく。息が詰まり、視界が滲む。

しかし、その時、誰かが割って入った。

総一郎「そんなわけないだろ!!!」

怒りと叫びが場を震わせた。そのいつもと違う雰囲気に一瞬誰か分からなかったが総一郎だ、この状況で迷いなく“否”の意志をその場に響かせられる稀有な人物

総一郎「君の話が真実の証拠もない!君の理解が間違っているかもしれない。もし、正解でも、君の世界が心で滅びたのに、遥かな世界を生きたはずの君の心は何一つ変わってないじゃないか!!!」

ウズメ「そうです!!!私は近くでナズナさんをずっと見てきました、そんな私だからわかる!ナズナさんは根本的にあなた達とはは違う、誰かを犠牲にする未来の選択なんか取りません。こんな誰からも見つけてもらえない私ですら愛してくれるんです。ナズナさんは敵とか味方の垣根を越えて幸せを祈れるすごい人なんです!」

結月「私はあなたの話信じられません。話を聞くに、シグナルエコーっていうのは過去から未来に届けた、祈りや願いであったはずです!最初から歪みを作る目的で送られたなんてことないはずです、現にナズナさんはこんなにもいろんな人から愛されているのだから、その共鳴に救いの祈りが混じっているはずです」

花芽瑠璃「1度目の世界?支配の王?自分の崩壊が恐ろしいから他人に押し付けている怖がりなのよ!ナズナちゃんは自分を犠牲にしても誰かを助けようとする女の子よ、私のナズナちゃんがあなた達や他の強欲な存在と同じわけがない」

千界「まぁそうだな.....お前の言ってる事はあってるかもしれんが、それでもこいつ(ナズナ)が一番俺達を生き残らせてくれる可能性が高いって皆、そう感じてるんだよ。お前の洗脳はきっと通じねーよ」

ヴァレリウスは、薄く笑みを浮かべ、片手を上げると、光を纏いながら、ぼそりと呟いた。

ヴァレリウス「……随分慕われたシグナルエコーだ、やはりナズナはずるい......でも、最後の瞬間まで君たちの信念は持つのかな?見ものだね?最後はみんな泣いて助けを乞うんだ、もう何度も見飽きたよ......じゃあね、次は終わりの時に」

その声が消えると同時に、彼の姿も跡形もなく霧散した。

ナズナは、ただその場に崩れ落ちた。心の中で、無数の問いが渦巻いていた──。