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古代のクリーチャー

進化の祭壇──日本に眠る儀式と異形のDNA

1. 事件──山中で目撃された「姿なき獣」

その事件は、夏の終わり、雨上がりの岐阜県・飛騨の山中で起きた。

山間を抜ける林道沿いで、複数のハイカーが“何か”に追われたと通報。彼らは口々にこう語った。

「……でかかった。狼みたいな胴体に、タコみたいな足が何本も……牙が……いや、牙って言うか、槍みたいな突起が10本以上……」

現場には血痕や遺留物はなかった。ただ、倒木が複数、根こそぎなぎ倒されており、斜面には巨大な滑走痕のような跡が残っていた。

地元の役所は野生動物による事故と発表したが、TASK-Vが極秘に現地入り。調査補助として、ナズナが現地に向かうことになった。

2. データ収集──消された集落と“影送りの儀”

現場から徒歩で2時間ほどの山腹には、地図にない廃村が存在していた。

ぽつんとある、朽ちた木造家屋の奥、神棚の下から、ナズナは黒ずんだ巻物を発見した。そこには震える筆跡で、こう記されていた。

「カゲを喰わせることなかれ。ヒトに戻れぬ」

この地域には「影送り」と呼ばれる独特の儀式があったことが判明する。

年に一度、夏至の夜に行われる儀式で、村人が赤土と灰を混ぜた液体を身体に塗り、火の周囲を旋回するという。

ナズナは現場近くに残された粘着性有機物から、未登録のウイルス様構造体を検出したとTASK-Vから連絡を受ける。それは「知識を含む構造的RNA」だった。

3. 推理──DNAに刻まれた“儀式”の痕跡

ナズナはANEI(AI)のデバイスを使用しデータから推理を開始する。

この構造RNA──仮に「β-Λ因子」と名付けよう。これはある一定の儀式条件下でのみ活性化し、人間のDNAの特定領域にアクセスする“起動装置”みたいな作用をする。

  1. 赤土・灰・火・旋回という儀式は、ある種の“条件”を自然環境内で再現していた
  2. その遺伝子が条件を満たせば、人間の遺伝子に非人類的な形態変化を引き起こす

この因子は人工物ではなく、古代から存在していた可能性がある。古代人はそれを“何かに近付くもの”と崇め、自らの進化を管理するものとして儀式化していたのかもしれない。

4. 仮説──神ではなく「書かれた獣」

残留RNAデータを照合した結果、筋肉線維の遺伝子再構成データの並びは、発見されている解読不能な古代神代文に酷似した記号列が含まれていた。

それはまるで古代文が遺伝子について「書いている」ようだった。

それ以上の解読はできなかったが、もしかすると......

ある一部の人間達は“進化”を“情報によって彫刻”しようとしていた可能性がある。

β-Λ因子は、情報を“かたち”として肉体に刻む。

つまり......

「人はかつて、肉体に知識を“受肉”させる方法をすでに手に入れていた。
それこそが進化を考え、秘密裏に受け継いでいた者たちがいる。」

5. ナズナの語り──進化の定義を、書き換えるときが来た

“それ”は目撃されただけだった。

狼のような胴体に、タコのように絡まる触腕。長さは5メートルを超え、10本以上の牙が放射状に突き出ていたという。

だが、その形状は証拠としては残っていない。残されたのは逃げる足跡と、異常なDNAデータ、そして山奥の風習だけ。

“それ”が人だったのか、それとも最初から人ではなかったのか、私には判断できない。

だが、ひとつ言える。

この世界の深部には、「常識では考えられない現象」が存在する。

そして、それが現実に突如出現するとき──

私たちが思っている「人類」という定義は、脆くも崩れるのだ。

──電脳探偵ナズナ