
フィルムちゃんと夜の公園
副題:きれいだから、持ってっただけだよ?
Scene 0|消えた召喚の中心で
「──にげちゃった、にげちゃった♪」
月明かりも届かない、召喚円の中心。ひとりの少女がいた。
白いワンピースの裾を揺らし、少女は剣を持っていた──いや、“盗んでいた”。
その剣、ヴァルゼグリムは、他の召喚体達と同じくセリカに召喚された剣。長い間、他の世界で封じられていた“断絶の鍵”。
「だって、きれいだったんだもん。かっこよかったし。ほら、先っぽキラキラしてたし──」
声は軽く、音楽のように跳ねる。
「セリカちゃん? うん、呼ばれたけど……なんか、めんどくさそうだったから、やーめたっ」
少女は一回転し、剣を肩にのせると、何もない空間そのものをふわりとジャンプした。
「えいが、みたいだったなあ。つぎはねぇ……あそびたいな。だれか、あそんでくれるかな」
Scene 1|依頼:幽霊の名前は“フィルムちゃん”
都内某所、ナズナの部屋──深夜、静まり返る空間に、端末の光がひとつ灯る。
【新規依頼】
公園に女の子の幽霊が出ます。
自分のことを「フィルムちゃん」と名乗り、夜に現れます。
触れられないのに、確かに“話せる”。
子どもたちは恐れず、むしろ慕っています。
ですが、気になりますので調べて下さい
ナズナは某公園が自宅近くだったこともあり、素早く支度し公園へ向かった
ナズナ公園に到着するなり、辺りを見回す。静まり返る空間、空を飛ぶ風がなぜか逆さに感じる。ブランコが、誰もいないのに、ゆっくりと揺れている。
......
すぐにわかった、明らかに人ではない消えたり出現したりする透明な映像みたいな女の子がそこにいた
ナズナは、ゆっくりと唇を動かす。
「……フィルムちゃん?」
「わーい、おねぇちゃーんっ!かわいいおねぇちゃんだ」
突然、声が降ってきた。
振り向くと──いた。
白いワンピース、素足。この世のと思えない宝剣のような者を片手に、そこに、ただ楽しげに立っていた。
「あ、やっときた! ねぇ、あそぼ!おねぇちゃん、あそぼー!なまえなに?」
「ナ....ナズナよ...よろしくね」
あまりの勢いにナズナは目を見開き、警戒する。
「あなたは……フィルムちゃん?」
少女は笑う。無邪気に、あどけなく、何も知らない子どものように。
「うん! わたし、フィルムちゃん。みんながそう呼ぶんだもん。だから、わたしもそう呼んでる!」
ナズナはそっと歩み寄る。彼女の足元は確かに地を踏んでいる。だが、存在感がほとんど無い。
フィルムちゃんの気配は今までのクリーチャーとは異次元で、常に最大限の行動ができるように警戒はしていた、しかし、ナズナはその宝剣にも目を奪われた。それは下手をすると世界の隔たりを簡単にスライスするぐらいのエネルギーに満ち溢れていた。超能力でも魔道でも無い異質な剣、例えるなら魔王の剣。
「その剣、どこで手に入れたの?」
「きれいだったから、持ってった♪」
「このけん……もってると、あたまが……キーンってなるの。きもちい。ねえ、ナズナちゃんもきいてみる?」
Scene 3|子どもであるということ
ナズナはブランコに座る少女の隣へ。
「……名前、本当は違うんじゃない? “フィルムちゃん”は、他の誰かが呼んだだけの名前でしょ?」
少女は首を傾げる。
「……そうかな?でも、わかんないの。昔のこと、全部、夢みたいで。目をつぶって考えたら……どこにもいなかった気がする。あ、でもフィルムちゃん映画大好きだよ、こんどいっしょにみよ」
その時、ナズナはポケットの振動を感じデバイスを見る。TASK-VからもらったAIがOSのデバイス(ANEIがOS)で強力な解析装置
【一致記録:適応異常体 No.0917-A】
D13号施設実験対象。消失記録あり。
※“唯一脱出に成功した実験体”
※現在の存在状態:観測不能(記憶損失)
ナズナの手が止まった。「まさか……まさかこの子が……」
少女はナズナの顔を見て、ふにゃっと笑った。
「どしたの、えいがきらい?フィルムちゃんもこわいやつきらい」
ナズナは変に流れを乱さないように切り替えて答える、彼女が怒れば何が起こるか分からないからだ
「映画好きだよ、ニューシネマパラダイスとかね.....わかんないか」
「ええぇぇーーえいがすきなの?うれしい!!はじめてだよ!!えいがすきなひとはじめて!!」
驚きながらも心底楽しそうにケタケタと笑う。
「ナズナおねーちゃんに特別にねいいことおしえたげる♡」
フィルムちゃんは何かを思い出そうとする。その瞬間フィルムちゃんは頭を抱えて呻きだした
「あのね、あそこ、赤い部屋は……だめ、こわい。あそこは、こわい夢のとこ……あ、えへへ、なんでもないよー♪」
「いきなりさわいでごめんなさい......しあわせだからきゅうにふあんになっちゃった ハハ」
ナズナは胸の奥が痛くなるような感じがした
Scene 4|去り際の余韻
ひとしきり子供との他愛無い会話をした。形は違えど子供は子供だった
急に風が強くなる。
フィルムちゃんはぴょんと立ち上がると、
「また呼んでるー。やだやだ、今あそんでるのに!フィルムちゃんナズナおねーちゃんのがすきなのにーーー」
「またねーっ! ナズナおねーちゃん、またあそんでくれる?」
ナズナはその愛らしい笑顔に無意識に警戒を解きほほ笑んで頷いていた
そして彼女は、“夜のすきま”へとすり抜けて消えていった。
Epilogue|記録の外からの存在
ナズナはその場に座り込んだまま、ANEIの記録に一行を追加する。
【記録追記】
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フィルムちゃん=適応異常体 No.0917-A
召喚干渉を拒絶。記憶消失。
現在は“子ども”として存在している。
感情は、極めて“純粋”。
対応指針:保留。ナズナは気づいてなかった。少女はセリカに召喚された存在で、異次元でも超災厄級の存在であり。D13号施設の数多存在する異次元の存在がいづれも脱出不可能だった状況で脱出した唯一の存在。それが元人間だったという事を
能力
存在のオンオフを簡単に切り替えられる。物理攻撃、魔道、概念的超能力以外は効かない。何にでも変身できる。変身相手の性質をほぼコピーできる。相手に憑依し意思を乗っ取ることが可能。子供故に論理的行動が曖昧。