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最後

最後の戦い

――黒き嵐の中心で、ナズナは立っていた。

セリカは空に浮かぶ漆黒の神殿。翼のような腕を広げ、崩壊する空間の中で静かに佇んでいた。

そのとき、九条凛は密かに円卓を目指し、拘束された瑠璃と奏一の元へとたどり着いていた。

「お嬢、行くぜ。あとは、姉ちゃんたちに託そう」

「でも……」

「みんなを置いていきたくないわ.....」

「みんな、お嬢の為に来てくれたんだぜ?あんたが怪我しちゃ意味ねぇ.....あと....その....さらわれた時、すぐ助けれなくてごめんな......」

瑠璃はぶんぶんと泣きながら首を振る

「さぁ坊ちゃんも 行こう」

「俺もいいのか......?」奏一が言う

沈黙が流れる

瑠璃は、この時様々な葛藤があったが、ナズナと同じ結論に辿り着いた

仲間を信じる、その一点だ。何もできない自分が、できる最大の選択肢を選ぶ

「兄さん、帰ろ.....」

奏一はボロボロと涙を流しながら"ごめん"と何度も繰り返した

「じゃあ、いくぜ」九条が言う

瑠璃と奏一を支え、九条は戦場から静かに離脱した。

瑠璃は車の窓から戦場を見つめる

「みんな......絶対に生きて....」

車は闇の彼方へ走って消えていった


スヴァレは既に花子の拘束から解かれていた。花子の興味はセリカのみに移っていた、スヴァレが暴れようとも、どうにでもできるという余裕の中で

「ふん、もう誰も俺に構っちゃくれねぇか……ったくよォ。こんなもんに付き合いきれるかってんだ、俺たちは呼び出されただけだ馬鹿野郎、人間ってのは本当に自己中だぜ」

スヴァレは空に中指を突き立て、虚空へと消えていった。

セリカはスヴァレの存在すら忘れてしまっていた

TASK-Vの撤退

上空には、応援できた、TASK-Vの制圧用多目的航空ユニット──“グラヴィオン”が展開していた。

「全弾、撃てッ!!」

千界の指示と共に、対異界兵装・ミサイル群が一斉に火を噴いた。

対次元干渉型、陽電子複合ミサイル、重力歪曲弾──
ありとあらゆる異常存在を想定した火力が、黒い神殿に向かって集中砲火を浴びせる。

爆煙が視界を覆い、世界が一瞬だけ白く染まった。

だが──

次の瞬間、黒煙の中から、ほぼ無傷のままのセリカが現れた。

その翼のような腕がわずかに動いただけで、炸裂する弾頭の軌道は捻じ曲げられ、砲火は空へと逸れていく。

「……効かないのか」

千界が口元を歪めた。

「これが、“完成体”か……」

オペレーターが次の指示を仰ぐ無線を送ったが、千界はこう命じた。

「これ以上は意味がない。全戦力、撤退。……ナズナたちに託す」

ヘリは旋回し、夜空の彼方へと離脱していった。


その時、花子は静かに呟いた。

「……もうわかった......」

そのまま霧のように姿を消していく。

カデンも笑いながら、戦場の端へ歩き出した。

「後は、お前らでどうにかしてくれ......十分助けた助けた。じゃーな」

何にも、真剣味を見せない男が、この時は少し声色が違った。それは、妹のこんな姿を間近で見るのが嫌だったからなのだろうか?

ナズナ達の覚悟

爆煙と静寂の中──

ナズナは、フィルムちゃんが遺した剣──《ヴァルゼ・グリム》をそっと握った。

黒銀の刃が共鳴し、
まるでこちらの意志を吟味しているかのようだ

ナズナは胸元のペンダント──《ラズナリアの結晶》を取り出した

「総一郎、これを」

彼女はその輝く結晶を、そっと彼に手渡す。

「君達なら、きっと、使いこなせる」

総一郎は黙って頷き、ペンダントを手に取り、構えた。

彼の手の中で、ラズナリアの光が脈打つ。

総一郎は、深く息を吸い込んだ。

「……俺はみんなを守る」

既に生成した剣の核に、自らの全ての想いを注ぎ込む。

刃が震え、空気が引き裂かれる音が走る。

「錬成──《慈愛の剣・ラズナリア=フェイズ・ゼロ》」

その瞬間、空間に光の粒子が現れ、 総一郎の手の中に生まれた剣は、もはや“この時代に現れた紛れもない新たな神具”の形をしていた

蒼白く透き通った刀身は、星屑のように輝きながら、 周囲の空間に奇跡をもたらした

人にとって一番大切な"慈愛"を限りなく物質として表現したのだ

そして──総一郎は、そっとそれを収めるように背負うと、 ペンダントを手に持ち、ウズメ達に向き直った。

「ウズメちゃん」

「……うん」

「結月ちゃん」

「はい……?」

「これは……君たちに託すよ」

ウズメはペンダントを受け取る

総一郎が二人を真剣に見つめる

「みんなで繋げよう......奇跡を」

「俺が絶対君たちを守るから」

「はい!!!」二人は声を揃えて言う

この時、ウズメは初めて誰かを本当に愛してしまう感覚を味わった

それは単純に目の前の青年が、今までの誰よりもかっこよかったのだ

その少女の恋は、無意味では無かった。愛というのはとてつもないエネルギーを生むのだ。

今のウズメは先程までとは比べ物にならない程の能力値になっていた、全く本人の気づかぬまま

総一郎が研ぎ澄ました声で呟く

「さぁ行こう……みんなで、終わらせよう」

黒き嵐、再臨

セリカが空中で手を広げると、空間が逆巻き、風が後ろへと流れる。

神殿のように広がった翼から無数の“黒の光”が放たれ、 空間が押し潰されていく。

「ぐ……っ!!」

ウズメの念動力の障壁が無ければ、とっくに潰されていただろう

誰も動けない。

全員が地面から近づく事すらできない

だが──そのとき、ウズメの身体が微かに震えた。

彼女の目が光り、腕がゆっくりと上がる。

「わたしが……支える!」

障壁で皆を守っているウズメが同時に能力を使いだした

地面に散らばる“黒曜石の破片”が一斉に浮き上がる。

重力と念動の制御が結合し、砕けた破片たちは、 空中に幾何学的な軌跡を描きながら高速で結合を始めた。

──それは“橋”だった。

無限の空中回廊。
闇に浮かぶ黒曜の足場が、ナズナたちを空の彼方への導線を作る。

「ナズナさん、ここから進んでください!!」

「ありがとう!ウズメ!!これで進める!」

ウズメの声に応じて、ナズナは地を蹴った。

魔導の雷光が身体を包み、ヴァルゼ・グリムを手に光速で駆け上がる。

「……セリカァァァァ!!!!!」

右へ跳ね、左に捻り、まるで嵐の中の雷そのものになるナズナ。

セリカの無慈悲な攻撃が迫る中、ナズナはその全てを切り裂きながら前進する。

「―――ア゛ア゛ア゛ァァァァァッッッ!!!」

セリカの翼の一部に極限の一撃を切り込む。

神殿の装甲が裂け、闇の下層から赤い魔力が漏れた。

──赤い魔力が噴き出した次の瞬間。

セリカが表情ひとつ変えぬまま、片腕を掲げた。

「“再構成”」

たったそれだけの言葉で、空間が反転する。

ナズナの足場が瞬時に崩され、重力方向がねじ曲がった。

ウズメが念動力で補正を試みるが、間に合わない。

ナズナが吹き飛ばされ、岩盤に叩きつけられる。

「──がっ……!!」

総一郎が斬撃を放つも、セリカの翼が回転し、剣を弾き返す。

「くそっ……まるで攻撃が効いていない……!」

その瞬間、黒い杭のような物が地面から複数射出され、
ナズナ・ウズメ・結月・総一郎、全員同時に襲った。

「──っ!!」

爆煙。絶叫。衝撃波。

ウズメの念動力による障壁はギリギリ間に合ったが、それぞれのダメージは大きい

全員が、地面へと崩れ落ちる。

ナズナも膝をつき、ヴァルゼ・グリムを地面に突き立てて耐えていた。

「……くっ……このままじゃ……!!」

■ 感情の臨界──少女、世界を支える

その時、ウズメは手が震えながらも、ゆっくりと上がった。

「……まだ、終わらせない……っ」

全身が血に濡れていた。

骨が折れていたかもしれない。

それでも──彼女の目だけは、光を失っていなかった。

「わたしが……みんなを支える!!」

叫ぶと同時に、念動力の核が反応を始める。

空間に残されていた全ての“意志”──砕けた武器、落ちた石片、仲間たちの声。

それらが念動の渦に集約され、巨大な光の歯車となって回り始めた。

「ナズナさん、総一郎さん、結月──」

「私、気づいたんです……」

「私の力は怒りじゃない、誰かを愛したい、愛されたい力だったんです」

総一郎を一瞬だけ見る。
その視線は、少女の顔をしていた。

ワタシハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!

ミンナヲ──!!

マモリタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァイッッッ!!!!!!!!!!

その感情が、ウズメの限界を遙に上昇させた

イケェェェェェェェェェェェェェェェェェッッッ!!!!!!!!!!

光が爆ぜた。

ウズメから"巨大な光の歯車"が発射される

回転するたびに、砕けた希望が再結晶し、
砕かれた時間さえ巻き戻しながら──

轟音とともに、歯車が解き放たれる。

セリカの方へ。

漆黒の翼が広がり、神殿の構造体がそれを阻もうとするが──

ウズメの愛が込められたその一撃は、
概念を貫く弾丸となって、彼女の守りを突き破った。

「──ギィィィィィンンッ!!!」

激しい閃光。

セリカの片翼が、粉砕された。

魔導のバランスが崩れ、空間に歪みが走る。

世界が──“彼女に逆らい始めた”。

時間の流れが正常に戻り、空気が通り、仲間たちの呼吸が整う。

総一郎が立ち上がる。

「……ありがとう、ウズメちゃん」

ナズナも立ち上がる。

「すごいよ、ウズメ……あなた、本当にすごい」

結月が言う

「私の親友すごい!!!!!!!!」

その言葉に、ウズメは小さく微笑んだ。

だが、その内心では──この気持ちが、力に変わることを、本人が一番驚いていた。

しかし、戦況は変わったものの、全員の消耗は隠しきれなかった

「ウズメちゃん、ペンダントを!!!」

親友の真剣な眼差しに、一瞬で何かを察知し結月にペンダントを放り投げる

結月が、それをキャッチする

(私も守りたい。親友も......親友の大切な人達も.....世界の誰にも悲しんで欲しくない!!!)

結月は総一郎に言う

「お願い。あなたの剣に、私の気持ちも、重ねさせて──」

総一郎はにっこり頷く

「あぁ!!!勿論だ!!!」

彼女はペンダントを手に添え、強く祈った。

「……全てに幸せが訪れますように……」

ペンダントが眩い光を放ち、総一郎の《ラズナリア=フェイズ・ゼロ》が共鳴する。

総一郎と結月は同時に祈る。その祈りは共鳴する

刃が振動し、内側から何かが形成されていく。

──そして、それは剣ではなくなった。

光が収束し、が形作られていく。

「俺たちの全力の祈りを……ナズナさんに託す……!」

総一郎がすぐさま、ナズナに叫ぶ

「ナズナさん! この鎧──着てくれ!」

ウズメが念動力で鎧をナズナまで転送し装着される。

刹那、ナズナの姿は変貌を遂げた。

ナズナの身体に転送された鎧が、 金と白の光に包まれ、静かに形を成していく。

それは──鋼ではなかった。

憎しみではなかった。

この鎧を構成するもの、それは──

優しさ。

総一郎の「信じる力」、
結月の「誰も悲しませたくない」という願い。

無数の“祈り”が織り重なって生まれた、
“慈愛”そのものが具現化した防具。

それが──神装《ヴェール・オブ・アフェクション》

銀白のオーラがナズナの全身を包み、
肩から広がる薄氷のヴェールが、女神のような威容を形成する。

「……こんなに、あったかいなんて」

ナズナの目に、微かな涙が光った。

そして──彼女は、自身の魔導を発動する。

雷が走る。
氷が咲く。

その現象はナズナ自身の“意志”の塊

「ありがとう。みんな......全部受け取った。」

「わたしは、戦う。
仲間を、この世界を守るために──!!」

最後の一閃

ナズナは空に立った。

その姿は、もはや神話の域に達していた。

祈りの鎧が、空間を揺らす女神のヴェールを纏わせ、
ヴァルゼ・グリムの黒銀の刃が、すべての崩壊の因果を断つ力を放っている。

その周囲には、雷と氷がうねり、光が渦を巻き、風が祈るように彼女を包む。

空間がナズナのために賛歌していた。

《エデンリコード》──

彼女が願えば、未来が答える。

「すべてを……わたしの意志で、終わらせる」

因果跳躍、空間加速、思考現実化。

──“神すら通れぬ道”を、ナズナだけが走る。

「セリカ!!!」

巨体の闇が咆哮を上げ、無数の触手と魔力の顎が空を覆う。

だがナズナは止まらない。

氷の槍を幾重にも生成し、雷の軌跡でそれを弾丸のように撃ち込み、
風の刃が防壁を裂き、光の奔流が近づくモノをすべて浄化する

──魔導、超能力、祈り、剣、すべての力を一つに束ねて。

ナズナが進む。

天と地の狭間から、絶対零度の稲妻とともに、 断絶の剣が現実を貫く。

これが私たちの祈りだぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!

その一撃が、闇の中心核──巨大存在の心臓を貫いた。

光と闇がぶつかり、音が消える。

──そして。

セリカの巨体が、崩れ始めた。

黒い構造が剥がれ、召喚体の外殻がひとつ、またひとつと崩壊していく。

そこに現れたのは──

闇に似つかわしくない乙女の姿だった。

白いワンピース。裸足。あの時のまま。

まるで、何も知らない子どもに戻ったように、セリカは虚空を見ていた。

最後の対話──セリカの意識

ナズナは、剣を下ろし、静かに歩み寄った。

セリカは、ゆっくりと目を開ける。

「……ナズナちゃん?」

声には全ての脅威が消え、優しささえも滲み出ていた。

ナズナは微笑む。

「……私は、あなたが間違ってるとは思ってないよ。
でも、“壊す”ことから始めないでって……何度も言いたかった」

セリカは、少しだけ笑った。

「……見守ってあげて、一緒に考えてあげても、よかったんじゃない?」

「...........」

「セリカが全部背負う必要無かったんだよ」

「……優しすぎるよ、ナズナちゃんは」

その瞬間──背後の崩れた闇が、不規則に暴れ始める。

セリカの核と繋がっていた“災厄の召喚存在”の最後の発狂。

ナズナは、それに振り返らずに、セリカをじっと見つめてこう言った

「ごめんね。もう、これは──“あなた”じゃない」

ヴァルゼ・グリムを、再び構える。

「断絶。すべての、終わりを──」

──一閃。

最後の外殻が、静かに消えた。

セリカは、そのまま目を閉じ、静かに意識を失う。

そうして全てが正の因果に収束した

「終わった.......」

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──すべてが終わったあと。

とある洋館の庭。
白い花が風に揺れ、穏やかな空気が流れる。

そこで一人、無垢な乙女が目を覚ます。

白いワンピースに身を包み、ベンチに座るその乙女は穏やかな雰囲気で
──どこにも影が無いような存在だった

「……お兄様」

振り返ると、そこにはカデンがいた。

「そんな所に居たら風邪ひくぞ?」

「お兄様....私、長い夢を見てたみたい。恐ろしいわ............でもすごくあたたかい騎士様もいたのよ.......」

セリカは、にこりと微笑んだ。

その笑顔は、罪も記憶も、何もかもを失った、
ただのひとりの、か弱い乙女だった。

カデンはそれを見て、ほんの少しだけ、目を細めた。

「……ああ、そうだね。行こう、セリカ.....」

二人は手をつなぎ、屋敷の中へと戻っていった。

遠く、夕日が沈む中。