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不老不死

不老不死の決断と、セリカの影

深夜の呼出

──23:47。

ナズナの端末が短く震えた。依頼だ

【TASK-V / 千界】
至急、来てほしい

その文面に、ナズナは目を細めた。「……TASK-V」ナズナは思い出す。何度か依頼でTASK-Vとは行動を共にしているが、千界はその隊長で火炎の王と対峙したときに一度だけ顔を合わしている

何も語られずとも、心に走る予感があった。時間が逆流するような既視感。

「了解。すぐそちらへ向かいます」ナズナは一言だけメールを打ち、深夜の街へ消えた。

極秘会議──召喚の兆し

現在のTASK-V本部は東京のとある地下施設にあるらしい。一見某有名企業のビルだが地下につながる通路があり、メールに添付された地図に従い紆余曲折進むと鉄の扉あった。

そこを開くと、肩幅が広くて目つきが鋭く顔立ちはからすると二十代半ばぐらいだろうか?その割にとても風格のある男が立っていた。それが千界だ。彼は待ってましたと言わんばかりにナズナの前に立った。

彼の目は、異様な疲労と焦燥を帯びていた。「来てくれて助かる。……時間がない」

急いで会議室に案内され、映像を見させられる

スクリーンに映し出されたのは、夜の空に伸びる巨大な円卓。

「これは──?」

「恐らく異界の存在の大規模な。“召喚の儀”だ」

千界はナズナを見て言う。

「君は……神代セリカを知っているだろう?」

ナズナは静かに頷いた。

「……はい。知ってます」

「そうだろうな、恐らく奴については君の方が詳しいかもしれない、なので端的に説明する」

「神代セリカが何かしらの不穏な作戦を決行した可能性が高い、奴は禁忌の異界の門を全てくぐり抜けて幾つかの警戒レベル最上級に匹敵する異界の存在を支配下に置いた」

「何故、奴がそれを成せたのかは不明だ。しかし問題はそこでは無い、これから起こりうる未曾有の事態に対抗する術を速やかに決行しないと我々の存亡の可能性は限りなく低くなる」

「そんな......」

ナズナは思う。神代セリカはいつかとんでもない事態を引き起こすだろうとは思っていたが、それが早すぎる。想像の上のスピードで成し遂げようとしてる、それに対して対応できるように準備をしてきたのだが、このままでは間に合わない

それにあの石柱だ、私は一つしかくぐれる自信が無い。神代セリカは五つすべてくぐった。こんな異常な事は他に無い。それを達成すれば強大な力を手に入れれると予め踏んでいた推論力と予測力、それに賭ける胆力、成しえる個体存在の能力とセンス

ナズナは見誤っていたのだ......まだ過小評価していた。そんな自分に神代セリカに勝算できるイメージが湧かない......

「事態の重さはわかりました......しかし千界さん......一体私に何が出来るとお思いですか?」

「そうだな......電脳探偵、君は恐らくわかったようでわかっていない。それは君自身を分かっていないのだ」

「私も馬鹿ではない、この組織で日本を何回かは救っている。その私がこの緊急事態に君を呼び出したのだ、それにはきっと意味があるだろ?」

意味???.....自分をわかっていない???.....

「とにかくだ、話を先に進めさせてくれ」

「はい......」

ナズナは小さく返事した

彼はスクリーンに細胞データと古文書を示す。

「今日、話すことは極秘だ。記録にも残らない。
ただ、君にしか受け入れられないかもしれない“治療”についてだ」

「……治療?」

「正式には“LIS-02α”と呼ばれる次世代ワクチン。
かつて人魚の肉と呼ばれた標本から抽出された因子と、
現代のテロメラーゼ活性酵素、さらに異次元適応免疫構造を統合した……不老化因子だ」

人魚伝説?不老不死?ナズナの眉がわずかに動く。

ナズナは一か八か聞いてみる「つまり、“老いない身体”になるってことですか?」

「正確には──老いも死も、極限まで遅延される。
自然治癒力は1000倍に増幅され、損傷はほぼ瞬時に回復。
ただし、“一瞬で肉体そのものを消失させる攻撃”を受ければ、死んでしまう」

ナズナは、じっと黙ったまま視線を落とす。

「この適応性は、誰にでもあるものではない。
“人外との接触歴”と、“異界の成分に耐えうる精神構造”が必要条件となる。
君は、あらゆる事件でその片鱗を見せてきた。すでに、半ば“この世界”にとどまっていない」

静かな言葉だったが、ナズナの中で“何か”が確かに腑に落ちた。

「……君に深く関わった者たちも、あるいは適応する可能性はある。
だが、その成功率は著しく低い。
今、確実に“適応する”のは──君だけだ」


◆ それは特別ではなく、先取り

千界は続けた。淡々と、だが確信をもって。

「これは、神の恩寵でも、選ばれし者の証でもない。
ただの“未来のスタンダード”を、君が少し早く受け取るだけだ。少し先の未来には大抵の人間がこれを打ち不老不死になる。ただの化学だ」

 

「数々の常人では生き残れない事件を生き抜き様々な人外の能力を持つ君がこれを打つのはまさに選ばれしものであり奇跡であるがね。人類の希望であり、世界の命運がこれで変わる。しかし不老不死自体は特別ではない。」

スクリーンには、近未来の都市。多次元との接続ポート、人類の適応化処置、様々なイメージが映し出される

「このワクチンは、“人間”のまま次元交差を耐えるための最低限の処理だ。
君が先にそれを手にするのは──当然の帰結にすぎない」

それは運命の選別ではなかった。 ただ、“必要だった”。 今この世界が、危機に瀕している──それらと対抗するのに必要な未来の先取り、それだけの話だ。


◆ セリカの儀式、対抗するために

「……君も感じているだろう。
神代セリカの行動は、次元の安定を破壊し、“我々の存在の再定義”すら可能にする危険な領域に入りつつある」

「……はい、以前彼女と接触したとき彼女は世界を良くすると言っていました。恐らく強大な力で世界を書き換えるつもりです」

「やはりそうか......ホントに奴は人なのか......いや、人だ。私はあの子の父上や母上を知っている。あの子の家系は日本有数の財閥だからな職務上関わることがある。それでいてあの子がまだ小さい頃に何度かあったことがある。神代セリカと神代カデンと言う二人兄妹だ」

「兄がいたんですね、セリカに」

「あぁ.....二人とも特異な才能があり実に良い子で悪意なんて微塵も感じられなかった.....あの頃はな.....私が見抜けていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない」

スクリーンに映し出される禍々しい円卓、この世の者ではない別世界から召喚された“それら”

ナズナは見た目だけでも明らかに今まで見た異界の存在より格上の常軌を逸した風格の"それら"を見て無言のまま拳を握った。炎の王を初めて見た時の感覚が思い出される、しかし彼は恐らく手加減してくれていたし、こんな悪意の塊みたいな存在と全く別だった気もする

「やつらの進行を止めるには、少なくとも
“召喚された存在”と同じ舞台に立てる力が必要だ。
今の君では、足りない。だが、この因子を受け入れれば──」

ナズナの答えは.......

「……やるわ」

静かで速かった

ためらいはない

不老不死になることが現状を打破する最適解で、それは避けられない導きの様に感じたのだ。ナズナはこの直感に従う事が多い、そんな時彼女の結果は悪くはならない、ナズナはそれを知っているのだ

「私がここまで来られたのは、どんなことがあっても“この世界を愛しているから”
もし、この世界が危機に陥って声をあげてるなら応えてあげないといけない」

「ありがとう。ヒーローみたいだな、文字通りこの世界を救ってくれ」

千界が合図すると、数分後研究員らしき人達が銀色のアタッシュケースを持ってきた

研究員が青色で透明色の綺麗な液体の入った注射器を取り出す

「では、腕を」研究員が淡白に言葉を吐く

千界とナズナは目線を合わし同時に頷く

彼女が腕を差し出すと、銀色の注射器の針がナズナの腕にゆっくりと滑り込む

その瞬間、室内の空気が、張りつめた糸のように静止する。

「……君は、観測者から、この世界の代表者になる」

千界が宣言する。千界と部隊兵、研究員が敬礼する


◆ その瞬間、ナズナは──未来と結ばれた

痛みはなかった。熱もない。ただ、感覚だけが“進化”した。

何かが終わり、何かが始まった。

その体に、もはや「老い」はなく、傷は残らず、 そして──**“この世界を超えて、世界を守る”ための力**が流れ込んでいた。

神でも怪物でも、人でもない存在。

それが、ナズナだった。

「──行きます。セリカを止めるために。
彼女が願ってしまった理想が、世界を壊す前に」

夜の帰路、永久の沈黙

千界との対話を終えたナズナは、無言でエレベータに乗り込んだ。

地下から地上まで、まるで潜水のような静寂。

エレベーターの鏡に映る自分の姿を、彼女はしばらく見つめていた。

表情は、何も変わらない。
けれど──もう、彼女は“時間”から解き放たれていた。


◆ 無音の都市、無限の身体

夜の東京。ネオンは静かに揺れ、車の音だけが遠くに響く。

ナズナはタクシーを使わず、ひとり、夜の街を歩いた。

風が髪を撫で、建物の硝子が彼女の影を無数に映す。

──私はもう、老いない。
傷ついても、すぐに治る。
世界のどこにいても、“崩れない”のか.......

その事実は、思ったよりも実感を伴わなかった。

肉体に違和感はない。ただ、どこかで「私は変わった」という“無言の確認”が、皮膚の内側で続いていた。

信号が青に変わる。
ナズナは、歩道を渡る。
変わらない都市の風景のなかで、自分だけが“変わらない”を持っていることを、誰も気づかない。


◆ 帰宅、そして静かな対話

部屋に灯りをつける。エアコンが静かに起動し、クーラーの音が部屋を満たす。

バッグをソファに置き、冷蔵庫からミネラルウォーターを一本取り出す。

──すべてが、いつもと変わらない。けれど。

“この身体には、もう寿命がない”

ナズナは鏡の前に立つ。肌に張りがあり、目に濁りがない。疲労感も薄れ、脈も静かに整っていた。

だが、それは健康ではなく──**再生するものになった**という証明だった。

「……これが、“終わらない”という感覚……」

彼女はソファに座り、薄手の毛布を膝にかける。 クーラーの音がリズムを刻む中で、部屋に静かな夜が訪れた。


◆ 眠れぬ夜と、心の余白

ベッドに入る頃、ナズナはまだ目を閉じていなかった。

──私はこの先、誰かの死を、幾度も見ることになる。
私は止まることなく、すべての記録を積み重ねることになる。

布団の中で、彼女は小さく呼吸を整える。

身体は完全に静まり返り、心だけがかすかに揺れていた。

「……でも、それでも。
この世界を守らなきゃいけない」

まぶたを閉じたとき、ふと千界の声が耳に残っていた。

「君は観測者から世界の代表者になる」

「代表者.....なら.....世界を幸せに.....しないと.....」

ナズナはいつの間にか深い眠りについていた