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kurusaru

全員集合

二台の車は到着し、全員が躊躇なく円卓へ向かった。それはまるで最後の戦いに向かう戦士の様に勇ましく

黒曜石の円卓は静まり返っていた。

円卓の中心に佇むセリカは、白いワンピースに裸足という姿で、静かに微笑みを浮かべている、不気味な乙女だった

その背後には、異界からの召喚体──鋭い爪と不気味な羽、30mの巨大には包帯がぐるぐる巻き、この異様な存在クルサルと、精神を蝕む眼を持つ赤い骨の悪魔スヴァレが控えている

フィルムちゃんは無言でピアノの前に座り、退屈そうにその鍵盤を見つめていた。

ナズナ、総一郎、ウズメ、結月、九条凛、千界、カデン、花子は円卓を取り囲む形で立ち、瑠璃と奏一はセリカの近くに拘束されている。

「みんな........」瑠璃が言う

瑠璃が失意のどん底から一筋の希望を見つけたように、涙ながらに微笑み、ナズナたちもそれに応える。

「お嬢!」と九条が声を荒げて近付こうとするが、セリカに睨みつけられ一歩引く

奏一は静かに瑠璃を見つめると、申し訳なさそうに口を開いた。

「……ごめん、瑠璃。ずっと逃げてきた俺が、お前をこんなことに巻き込んじまって……」

「こんなにも愛されている妹を.......どうしようもない兄貴だ.......」

ナズナは合点がいった、いつかの依頼で見た、この青年は花芽瑠璃の兄なのだ、セリカはナズナの仲間だから拉致した訳でなく、この青年にセリカの計画にとって、何らかの重要な役目があり、それを人質と引き換えに実行させようとしているのだ。あの禍々しいピアノ......あれが関係している

瑠璃は柔らかな眼差しで奏一を見つめ返した。

「兄さんが生きてて、本当によかった.....」

その言葉に、奏一の表情は少しだけ和らいだ。

だがその静かな感動の瞬間を遮るように、セリカの軽やかな声が響いた。

「素敵な再会だわね。美しいわ。もっと美しくしたいのよ私、欲張りだから、だから早くはじめてちょーだい?待ちきれないわ♡」

セリカが奏一に視線を向ける。

「さて“召喚の鍵盤”は何を出現させてくれるのかしら?プレゼントを待つみたいで楽しいわね、ね?♡ナズナちゃん?」

ナズナはセリカを睨みつける

「セリカ......もうやめて。あなたはただの破壊者じゃないでしょ?世界を良くしたかった.....私と同じ考えなのよ。でも、あなたの一度壊してから新しく作ろうとする考えは間違っている。あなたの世界の為に犠牲になる人達はどうでもいいの?」

「ふーん.....ナズナちゃんは世界をこのまま変えることができると思ってるって事ね?聞きたいわ.....今の世界は、本当に治療可能なのかしら?今この瞬間も世界中で弱い人間、存在が声をあげる事すらできずに、誰にも知られず踏みつけられて、利用されて、孤独に忘れられていくのよ?それが蔓延してる。それなのに世界は正義に進んでるとみんなは言うのよ?」

ナズナは言葉が出なかった、彼女の言ってる事は間違ってはいないからだ。だが.....違う.......犠牲を肯定して作り上げるものは正解ではない、新たな混沌だ

「言いたいことは分かるは、でもあなたが作り上げる新しい世界が正解となる保証は無い、形が変わっただけの今の世界と同じになる可能性もある。その場合、あなたの理想の為に犠牲となった人達はあなたが憂いる存在にはならないの?」

セリカは先程の軽やかな表情が消え、恐ろしく冷たい視線でナズナを貫く

奏一は険しい表情で会話に割って入る。

「嫌だ。絶対に弾かない」

しかしセリカは平然と手元から出現させた黒い刃を、瑠璃の首元に突き立てた

「奏一くん強情ね、でも、そろそろ飽きちゃったわ......よく考えてね、次の命令以降の拒否は、この子が終わってもいいって、合図と捉えちゃうからね♡」

奏一の瞳が大きく揺れた。彼の中で一番大切な者が失われようとしてる、それは世界よりも。奏一は歯を食いしばり、ゆっくりとピアノに近づく。皆がどうにかしようと体勢をとるが、セリカと召喚体達の牽制に、どうすることもできなかった。

その時カデンが喋りだす

「セリカ~お遊戯は、もう満足したろ~?お前じゃ無理だって。屋敷で大人しくワルツでも踊っとけよ~、痛い目で見られてる、兄貴の身にもなれよー」

「あら、お兄様。ご機嫌麗しゅう♡存在感が無さすぎて気づかなかったわ...いつから友達を作るタイプになったのかしら?一人じゃ何もできない才能も無い神代家の異常者だからかしら」

「あー、言いすぎだろ。お兄ちゃん傷ついた、てか、今新しい妹いるからお前もういいわ、最後に遊んでやるよ、お前のノクチュルヌ。下らねえ演奏すんなよ」

セリカは花子を見る、花子もじーと見つめる

「.......不気味でお似合いね」

「じゃあ、そろそろ始めましょうか盛大なフィナーレを。世界が変わるほどの!!」

「やめろ、セリカ──!」ナズナが踏み出す。

セリカは冷淡な表情で指を上げ、クルサルとスヴァレに命令を下した。

「さあ、楽しませてちょうだい」

次の瞬間、地響きとともにクルサルが咆哮を上げ、猛烈な勢いで円卓のナズナ達に襲いかかった。同時に、スヴァレは眼を見開き、全員の精神を侵し始める。

「女王様の命令は絶対だからなー、悪く思うなよ」スヴァレが一人呟く

こうして、戦いの火蓋が、ついに切って落とされた。

最強の異形 クルサル

クルサルが大地を揺るがす勢いで飛び込んでくる。30mもの巨体が異様な速度で接近してくる、すぐさま全員が円卓から退避し森の中に逃げ込む

クルサルが途轍もない勢いでナズナに突進する、一番リーダー各のナズナを終わらせれば全てが瓦解していくと考えてかもしれない、それとも一閃丸との戦いを見てナズナの力を試したくなったのか

総一郎は守るべきもののために光り輝く剣を生成し、その刃でナズナを庇いクルサルの爪撃を受け止めた。凄まじい衝撃が辺りを揺るがすが、総一郎は歯を食いしばり耐え切った。

ウズメは超能力で土や砕け散った木々を錬成し踏み場を作り、全員が安全に移動できる道筋を作り出した。電波塔を超能力で制御したことにより、ペンダントが無くとも彼女はあらゆるものを掌握する感覚を会得していた

結月はすかさず回復能力を発動し、総一郎、ウズメの消耗した体力を回復しその他全員にも駆け寄り負傷を癒した。

一方、スヴァレの精神攻撃は容赦なく続いている。赤い視線が意識を蝕み、現実感覚を混乱させる。

花子とカデン以外全員が絶不調の気分の中で、クルサルの一瞬の油断も許さない猛攻を回避している状況は、戦闘開始直後だが限界の色が見えていた

「カデン、花子!」千界が鋭く指示を出した。

カデンは静かに微笑むと、手を掲げ、なにやらぶつぶつ呪文を唱えた。その瞬間、空から禍々しい咆哮とともに『古代の毒の怪鳥』が現れ、スヴァレに襲いかかった。

「ギャァァァァァァァオオゥ!!!!!」

「痛ぇなぁー、割に合わねぇ.....俺達は呼び出されただけだぜ?悪者はどっちだ?」誰にも聞かれず一人呟く

全員が呆気にとられた

この常にふわついた男がほんの数秒で召喚体達に並ぶほど存在を呼び出したからだ

カデンは怪鳥を指揮するかのように、クルサルに指差しをした。怪鳥がクルサルに突撃し襲い掛かる

それと同時に花子は瞬間移動の様に体を消してからにスヴァレの前に再度出現させた

「いっしょに遊ぼ?.........」

スヴァレは呟く

「なんだこいつ?普通じゃねーな―.....なんて禍々しいもん背負ってやがる」

スヴァレは逃走しようとしたが、見えない巨大な手に鷲掴みにされ拘束される

花子は拘束した者の能力を自分と同レベルまで弱体化できる。スヴァレの視線の力が著しく低下し、ナズナたちの精神が安定を取り戻し始めた。

上空では最新の武器を兼ね備えたTASK-Vのヘリがようやく到着し千界の指揮のもと援護射撃を開始した、クルサルに向かって超音速の誘導ミサイルを放った。

爆音とともにクルサルが一瞬怯む。

「今だ!!!!」

ナズナの荒げた声の意味を全員が察知し補助に回る

ウズメはクルサルへの道を超能力で作り、結月はナズナの全てを回復する。総一郎はナズナに「これをっ!!!」と錬成した神器を渡した

千界はヘリにさらなる猛攻を指示する

カデンはより楽しそうに指をくゆらせて、怪鳥がクルサルに毒を吐きかけ強烈に襲い掛かる

花子は余裕の表情でスヴァレを拘束し強く握ったり弱く握ったりしながら「きれい.....」と漏らす。

ナズナは、総一郎から託された“神聖な剣”を高く掲げた。

魔導が極限まで高まり、刃に宿る氷と稲妻が交差する。
やがて剣はその形を変え、巨大な眩い光の槍となって空間を裂いた。
その周囲には、稲妻の竜巻が唸りを上げながら渦を巻き、
天をも穿つ雷神のごとき威容を放っていた。

そして、ナズナは動いた──。

ウズメの念動力がその背を押しながら、魔道による身体強化でさらに加速する。
さらに自らの超能力《パラグラム》を発動。
一秒後に自分が在るべき「位置」を現実の常識を超えた“遥か前方”へと強制指定する

未来の座標へ、今を無理矢理に引きずり込むように――
ナズナは、光の奔流となって空間を突き破る。

その加速は、もはや跳躍ではない。
一閃。
因果をねじ伏せる、未来への直線。

加速

加速

超加速

――――極限加速。

──限界突破。

そして、空間が破裂する。

時間すら置き去りにした、その瞬間。

“世界が貫かれた”と、誰もが錯覚した。

雷と氷を纏った巨大な神槍が、稲妻の龍のごとき咆哮をまとい──

クルサルを、天から落ちた裁きの矢のように、深々と貫いた。

激しい衝撃音とともに、巨体がよろめく。

その瞬間、ナズナはさらに魔導を上乗せし、槍の中枢に“凍てつく核心”を形成。

「──絶対零度、沈黙の刃。」

光と冷気が同時に爆ぜ、槍の根元からクルサルの内部へ、凍てつく雷が一気に侵食する。

クルサルの動きが一瞬止まった。稲妻と氷に包まれた巨躯が、空中で硬直する。

「...........」

「やったか.....?」

ナズナは息を呑む

だが──

「……まさか。」

クルサルの背面の羽から“黒い繊維”が無数に広がる。

凍結は破られ、再生が始まる。

「こんな……」ナズナが呟く

「第二形態か.....」カデンが見上げる

フィルムちゃんの願い

戦闘が激化する中、セリカは冷酷な笑みを浮かべてフィルムちゃんへ命じた。

「フィルム、ナズナを殺しなさい」

フィルムちゃんはその言葉に難色を示した

「いや……自分でして……なずなおねぇちゃん.....ちょっと好きだもん.........」

「悪い子ね、言う事を聞けない子はお仕置きしなきゃね」

ゆっくり、フィルムちゃんに近寄るセリカ

フィルムちゃんの特性と能力を考えれば、この場にいる誰よりも強い可能性があるはずで、それをセリカも知っているのだが何一つ恐れず歩み寄る

その瞬間、フィルムちゃんの近くで次元が裂け、そこから出てきた悪魔の様な奇妙な腕がフィルムちゃんの首を絞める。フィルムちゃんは幽体なので物理法則は効かないはずなのだが、それが当たり前のように法則を無視して行われる

「いたい.....こわい.......赤い部屋.......いやだ........やめて.......!」

フィルムちゃんは勇気を振り絞ってセリカに反撃を試みた。

フィルムちゃんの最強の能力、相手に憑依し取り込んでしまう。取り込んだ相手の全ての能力、潜在的ステータスを模倣しつつ、フィルムちゃんの計り知れない個体値をそこに加算できる能力

勝負は明白だったはずだが......

セリカは待ってましたと言わんばかりの不敵な薄い笑みを浮かべ、その攻撃をセリカの主な特殊能力"反射"で跳ね返した。憑依は無効。さらには一度反射した能力は自分の能力になるという特性からフィルムちゃんの力を吸収してしまった。

「うーーん、素晴らしい能力ね♡ 役に立ってくれて、ありがとっ」

セリカはすかさず唱える

「憑依」

するとフィルムちゃんが絶叫しだす、その声はクルサルと戦闘している全員にまで届くほどに

「なずなおねーーーちゃーーーぁぁぁぁん!!!!だずけてえええぇぇぇ!!!!」

フィルムちゃんの叫びはむなしく響き渡り、その存在が粒子となってセリカに取り込まれていく。

「フィルムちゃん!」ナズナが第二形態と再生していくクルサルを傍らにその声を聞きつける、ナズナは瞬時に超速移動をし円卓まで戻る

時すでに遅し、フィルムちゃんはほぼ消えかけで声しかない

「もっと.......おねぇちゃんとあそ....びたかった....いっしょに....えいが..」

「フィルムちゃーーーーーん!!!」

ナズナは叫ぶ、召喚体と言えどナズナからしてみれば人懐こい純粋な子供にしか見えなかったのだ

普通にどこにでもいる子

どこにでもいるかわいらしい子

普通に仲良しの子

----普通にすごく愛しい子-----

「そんな.......」

ナズナは茫然とする

すると、ナズナの足元に、静かに一筋の光が落ちた。

それは、消えゆくフィルムちゃんの手からこぼれ落ちた剣だった。
まるで最後の力を振り絞るように、震える小さな指先が、その柄を手放す。

白い靄の中、ひときわ眩く光るそれは、
涙のように──そっと地に触れた。

――魔王の剣《ヴァルゼ・グリム》。
真に選ばれた者だけが扱える剣、 全てを断絶する宝剣。

セリカもそれに気づく、ナズナは一瞬の猶予もセリカに与えず雷の様な光速で拾い上げ、仲間の元へ戻る

悲しむのは後だ、ここでやられたら悲しむ事すらできない、まだ終わっていない。守らないといけない人たちがいる

―――しかし、全ては始まってしまった

奏一の演奏は壮麗なグラン・フィナーレにより幕を閉じ"何か"を呼び出した

円卓に巨大な闇の存在が顕現し始めた。

召喚が──完成した。

融合、最終存在セリカ

円卓の中央に、漆黒の闇が渦巻く。

それは“名もなき災厄”だった。この世界に存在してはならない闇

その存在が姿を成すと同時に、空気が震え、重力すら逆巻いた。

だが、セリカは一歩も退かず、穏やかに微笑みながらその前に立った。

「ふふ……ようやく、出会えたわね」

漆黒の存在が静かに口を開く。いや、それは声ではなく、精神への侵入に近かった。

『..............』

「私は、あなたを受け入れる者よ。私はあなたを必要としているの」

『..................』

セリカはゆっくりと手を広げた。

「従わせる? 違うわ、私は──"あなたを食べるのよ"」

次の瞬間、闇の存在が咆哮し、巨大な腕を振り下ろす。

だがセリカは、まるでそれを待っていたかのように笑みを深めると、反射の能力を展開した。

黒の衝撃波が彼女の胸を貫いたかに見える──

しかし、それはそのまま反転し、闇の存在自身へと返された。

『..............゛゛゛』

「今度は、私の番ね」

反射と同時に、セリカの身体が闇に染まりはじめる。

その身に闇そのものを吸収していった。

「素晴らしい♡……これが、完全な存在♡……いい気分だわ、なんでもできそう」

やがて、漆黒の巨影はセリカに取り込まれ、その姿が一つに融合していく。

その気配は、まさに“災厄そのもの”。

闇が具現化したようなその存在は、天に逆巻く触手と禍々しい翼を広げていた。
かつてセリカと呼ばれたその影は、もはや人間の形をしていなかった。

虚空に反転した神殿のような骨格──それは建築物であり、生物であり、情報の集合体でもあった。
その表皮は、悲鳴と記憶が圧縮された様な黒い呪文が波打ち、時折“声なき祈り”を呟く。

「これで、完成よ」セリカ自身が漆黒の巨影になり、その闇の巨体の中で呟く

そして、"それ"は空中へと舞い上がる。

「あとは……素材を揃えるだけ」

その声と同時に、黒き閃光が奔り、セリカは戦場の端──クルサルのもとへ瞬間移動する。

そこにいる"すべての存在"が茫然と闇の巨体を見つめる、クルサルまでもが

「立派だったわよ、クルサル。でももう、あなたは不要」

"それ"はその手を一振りし、再生しかけていたクルサルを、まるでデータでも吸い込むように粒子化させて吸収する。

──誰もが言葉を失った。

ナズナも、千界も、カデンも、花子すら。

“あのクルサルが、一瞬で──”

沈黙が戦場を支配する。

その中心で、セリカは静かに囁いた。

「全ては、新しき世界のために」

空が軋み、世界がねじれる。

絶望が、姿を持った。