
チームナズナvs強獣|ニュータウン死闘編
―― 第一章:呼び出し
ナズナはヘリの中で一刻も早く到着したいが為、落ち着きがない。普段は冷静に次に起こることの対処を事前に思考するのだが、今のナズナは街や仲間の事で頭がいっぱいだ
ヘリの窓から、遠く黒煙が立ち上るのが見えた
「街が……」
ナズナは歯を食いしばり、携帯を繋いだ。
発信先はウズメ。
一秒が、体感で何倍にも引き伸ばされる。
数回のコールののち、震える声が応えた。
『もしもし!? ナズナさん!?』
「ウズメ!!無事か!?」
『う、うん! 一応……でも……』
途切れ途切れの声。背後ではサイレンの音が聞こえた。
『ニュータウンは、すぐに避難アナウンスが流れて、住民は地下シェルターに避難してるよ! でも……』
「でも、なんだ?」
『逃げきれてない人たちがいるかもしれないから、"私たちは……残ってるよ!"』
ナズナの心臓が跳ねた。
「何やってるんだ!!!!……早く避難しろ!」
『でも.......』
「もしかしたら私と結月なら、一人でも.....一人でも助けられるかもしれないと思ったんです......」
ナズナはその純真で正しい行動に、仲間の心配で頭が一杯な自分を反省した
そしてもう一つ、男の声が重なった。
『ナズナさん、総一郎です! 俺も来てます!』
彼はウズメ達の住所を大体把握していたので、もしやと思い、ニュースを聞き、すぐさまウズメ達に連絡を取り駆け付けたのだ
ナズナは少し安堵しこう言った
「……すぐ合流する!」
ナズナはヘリの操縦士に、ニュータウン中心部へ向かように促した
―― 第二章:強獣の咆哮
ニュータウン。250ヘクタール。
巨大なスマートシティの中心で、それは暴れていた。
20メートル級の異形。
強獣──ゴリラに似た巨躯、だが全然それとは異なる。その巨体に張り付いてる顔はこの世界のどれにも一致しない形状だ、肌は硬質な鱗に覆われ、眼光は赤黒く濁っている。
ビルの一角が崩れ、爆風と砂煙が道路を覆う。
「ギョォォォォォォーーーーーー!!!!」
奴の雄たけびが、シティ全体に響く。恐ろしい声量で、奴の異常なエネルギーを本能的に感じさせられる
ナズナはヘリから強獣を見下ろす
「……こいつが、セリカの召喚体。」
ヘリは強獣から距離を取り、中心地に着陸した。ナズナは無茶を言った操縦士に軽くお礼を言い、すぐさま走り出した
ナズナは建物の陰からそれを見上げた。
地響きが鳴り止まない。
空気は鉄錆の匂いに満ちている。
政府は全く状況を掴めずに防衛ラインは破られ、警官隊も強獣にはどうにもできずに市民の非難を第一優先に行動をとっている、誰もが距離を取って見守るしかない。
「TASK-Vは......こちらには人員は避けないだろうな」
ナズナは理解している。
本部では、ザルネ・テリオスという別の強大な存在との戦闘が起きている。
援軍は、ほぼ期待できない。
──自分が、やるしかない。
―― 第三章:作戦立案
合流地点、ニュータウン区役所前。
ナズナはウズメ、結月、総一郎と顔を合わせた。
「状況は?」
ウズメが答える。
「住民のほとんどは地下に避難してるよ。でも、まだ……中心部に取り残された人がいるかも……」
「時間がない……あいつを止めないと。」
ナズナは本当はウズメ達もすぐに非難して欲しかった、しかしそれを言ってしまうと彼らの意志を蔑ろにしてしまう。
もう一つ、自分のみではこの相手に歯が立たない可能性がある。
ナズナがこの仲間たちに超現実的能力を引き出すチップを渡したのにも理由があるのだ。
彼らは、普通というレベルの潜在能力の人間ではない。様々な異形と対峙したナズナには、はっきりとわかる
もし自分たちが"何者"かを理解し力の扱い方さえ掴めば、彼らは召喚体に近い能力を持つ存在になりえる
ナズナは深呼吸し、簡潔に命令した。
「聞いて。これが作戦だ。」「まずはウズメ、このペンダントを持っておいて。これは、魔導専用の能力拡張装置だが超現実的能力にも使えるようにしてる。細かい事は考えないで、要するに自分のチカラをパワーアップしてくれるんだ」
ウズメの能力は空間自体になることができるから、思いのままに物質的対象を操作できる、ペンダントで能力の底上げをして、あそこにそびえたつ巨大な電波塔をジャックして欲しい」
ナズナ以外の全員が唐突で非現実的な案に本当に可能なのかという顔をしている。しかしナズナは荒唐無稽で不可能な発言などはしない
「私、そんな事.....たぶん......できません....」
最もな返答だ、しかしナズナは答える
「今まであまり言わなかったが、ウズメ、君の能力は君が思う以上だよ。
一番最初にチップを使った時、あの化物に似たトロールを制御できたでしょ?あんなことができる最初からできる人間なんて、私の知る限りでは数千万人に一人なんだ
要領は同じなんだ、それが電波塔に変わるだけ。空間が自分になるなんて、その領域では神格になるようなもんだからね。お願いだ、私を信じて......いや、自分を信じて」
ナズナの言葉を聞いた面々の表情からは疑念が一切消え、あの化物を本気で倒せるかもしれないという、目つきに変わっていた
「まずは中央通信塔へ向かう。
ウズメの力で塔を制御し出力を最大まで引き上げ、**高さ20メートル**──強獣の頭部ラインだけに超指向性音波を発生させる。アコースティックウェポン(音波兵器)だ」
「音波で奴の神経バランスを乱し、隙を作る。」
「その間に私は、このスマートシティを統括するAI(ANEI)と同じOSを使用してるこのデバイスで防衛システムをハッキングする。
迎撃誘導ミサイルにアクセスし標的を奴にセットし、人がいる様な建物から離れた瞬間に発動させるつもりだ、これが成功すれば奴にはかなりのダメージを与えられる、そしてウズメからペンダントを回収し、身動き取れなくなったやつに、私の渾身の魔導を打ち込み行動不能に追い込む。」
ナズナは一息つき、こう言う
「君たちだけが、この街を救える。頼む」
全員が覚悟を決めた表情になり、作戦が開始された
―― 第四章:別れ、そして決意
だが──そのときだった。
砂の霧が、ざわりと揺れた。
白い世界に、黒い仮面が浮かび上がる。
ヴァルミエ。
音を喰らう存在。
その存在だけで、空気が張り詰め、都市のざわめきが吸い取られたように静まった。
全員がその突然現れた異形に混乱の表情をしていた、僅かに見えた希望も一瞬で塵になるように
「クソ.....こいつもセリカの召喚体か」
ナズナは、すぐに理解した。 ここで立ち止まれば、作戦はすべて崩れる。 全員が必死に築こうとしている、僅かな勝機さえ、潰えてしまう。
だが、ヴァルミエを無視して進むことはできない
──どうする。
ナズナが、数瞬のあいだに無数のシミュレーションを走らせたそのとき。
総一郎が一歩、前に出た。
「ナズナさん。」
静かな声だった。
「ここは、俺が食い止めます。」
「──バカかっ!」
ナズナは即座に怒鳴った。 そんなこと、許せるはずがない。
相手はヴァルミエ。
ただの怪物ではない。 人間より遙に能力の優れた世界の王の様な存在。
総一郎に見込みがあろうとも分が悪すぎる相手だ
まともに触れただけで、彼の心も、身体も、一瞬で引き裂かれるかもしれない。
しかし──
総一郎は、まっすぐにナズナを見ていた。
その瞳には、迷いがなかった。
「温泉のとき、言いましたよね。」
「──一人で抱え込むな、って。」
ナズナの胸が、ぎゅっと痛んだ。
思い出す。 あの日、ささやかな温泉旅行の中で、皆と笑い合いながらも、 心の奥底では、誰にも見せぬ孤独と戦っていた自分を。
「今度は、俺たちを信じてください。」
総一郎の声は、静かだった。 けれど、確かにナズナの心に届いた。
──信じろ。
私は仲間たちを信じることにしたんじゃないか?
ナズナは、自分の曖昧な心に唇を噛む
総一郎が、さらに強く言った。
「行ってください! ナズナさん!」
──託されている。
信じられている。私が信じているより遙に信じてくれている
ナズナは、心の底から叫んだ。
「絶対に、生きろ──!」
総一郎が笑った。
「当然です。」
ナズナは、総一郎に背を向け、魔道で身体強化しウズメと結月を瞬時に抱え全力で駆け出した。
振り返らない。
振り返ったら、もう二度と足が前に出ない気がしたから。
強獣へ──
この街を、 仲間たちを、 未来を、守るために。
── 第五章:接続、そして迎撃準備
ナズナはウズメと結月を両腕に抱え、超加速のまま高級住宅の間を跳ねるように駆け抜けた。
着地と同時に、ウズメたちを降ろす。
「急いで。あの塔を制御する──!」
中央通信塔は、破壊された建物の砂煙の霧のなかで怪物のように聳え立っていた。
ナズナたちはほとんど一息もつかず、管理エリアの非常口を強制開錠して中へと突入した。
ウズメは無言で頷き、ペンダント──ラズナリアを胸元に握りしめる。
「……やるしかない!」
結月はウズメの傍で彼女をじっと見つめる。これはウズメにとって何より意味のある心強い行動だった。 ナズナは、腰に装着したデバイスを起動し、都市OSへの侵入を開始した。
──ここまでの行動はかなり速い。 しかし、敵も同時に動いている。
遠くから、強獣の咆哮が響いた。
地面が震える。 巨体がこちらへ迫ってくる音が、重低音の波となって都市を貫く。
「時間がない──!」
ナズナは端末を恐ろしいスピードでハックし、迎撃システムへのアクセス権限のルートを強制的にこじ開けた。
「……ウズメ、頼む!」
ウズメは、塔のコアに手をかざした。
ペンダントが強く光を放つ。
瞬間、ウズメの意識が塔と“接続”された。
──空間そのものを自分の一部に変える能力。
超空間操作者・ウズメの神経が、都市インフラの巨木を攫うように支配していく。
「感じる……都市全体の脈動……!」
その手が、塔の出力を握った。
同時に、ナズナも迎撃ミサイルのコントロールに成功し、ターゲット設定を完了した。
【標的設定完了──】
ナズナは、わずかに息をついた。
これで準備は整った。
「ウズメ、奴の頭部、地上20メートル地点に周波数を収束して奴の付近に高出力の音波を撃ち込んで!」
「はい!」
ウズメの声が、塔の共鳴と重なった。
空気が振動する。
都市の心臓が、強獣を狙って脈動を始めた。
── 第六章:迎撃開始、そして運命の音
都市の空気が、異様な波動を帯びた。
通信塔から発射される超指向性音波。 狙うは、ただ一点──高さ20メートル、強獣の巨体の頭部ライン。
「撃って、ウズメ!」
ナズナの叫びと同時に、ウズメが全神経を注ぎ込む。
「あああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
高濃度のエネルギーが、塔の先端から放たれた。
目には見えない。 だが、確かにそこに存在する“刃”が、空を切り裂く。
──瞬間。
強獣の動きが、明らかに鈍った。
巨体が大地を揺らしながら、ぐらりと揺れる。
「効いてる……!」
ウズメが、押し殺した声で叫んだ。
だが、強獣は完全には止まらない。 重い咆哮をあげながら、強靭な脚でなおも前進しようとする。
「まだ足りない……!」
ナズナは室外に出て、地上30mの高さまで階段で昇る、風がビュンビュン吹き足場は狭い、そこで強獣と一直線の場所へ移動し魔導回路を全開放した。
──光槍、召喚。
ナズナの周囲に、きらめく魔導の槍がいくつも生まれる。
「行けっ!!!!!」
ナズナは光槍を一斉に投げ放った。
槍は強獣の脚部を狙い、雷鳴のような衝撃とともに突き刺さる。
筋肉を貫き、骨を砕き、巨体の動きをさらに削いでいく。
ナズナは過度な魔道の消費により、体力が吸い取られ歯を食いしばった。
──ミサイル起動まで、あと数秒。
その間にも、強獣は呻きながらも進もうとする。
もしこのまま突破されたら、都市は壊滅する。
ウズメも必死だった。
ペンダントの魔導エネルギーを限界まで引き出し、音波出力をさらに強める。
都市の通信塔が唸りをあげた。
ついに、ナズナのデバイスが通知を告げる。
【迎撃ミサイル、発射シークエンス開始──】
ナズナは即座に叫んだ。
「ウズメ、最大出力で固定して!」
「はいっ!!!」
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!
ウズメが絶叫するように集中し、周波数を一点に叩きつける。
──その瞬間。
都市防衛システムが迎撃ミサイルを発射した。
数発の鋼鉄の牙が、音速を超える勢いで強獣めがけて飛翔する。
ナズナは、その瞬間を見逃さなかった。
魔導槍をさらに生成し、弱った強獣の脚に連撃を加え続ける。
「倒れろ──!」
強獣の動きが完全に鈍った。
ミサイルの軌道がぶれることなく、一直線に強獣の胸部へ突き刺さる。
──轟音。
爆発が夜空を裂き、炎と衝撃波が広がった。
強獣の巨体が、地響きをたてながら崩れ落ちる。
──今だ。
ナズナはすぐさまウズメ達の元へ戻りペンダントを回収し
超速で駆け出す。
最後の、すべてを賭けた渾身の一撃を叩き込むために。
── 第七章:渾身の一撃
爆風の中を、ナズナは疾走した。
焼け焦げた空気、震える大地、瓦礫と破片。
全てを振り払い、ただ一つの場所へ──
──みんなの想い
──この街を守る
ナズナはペンダントを胸元に押し当て、 魔導回路を、心臓の鼓動と同期させる。
「……いくよ。」
ナズナの足元に、魔導陣が広がった。
空気が震える。
倒れ伏した強獣が、まだかすかに蠢こうとしていた。
だが、もう遅い。
ナズナは、右腕を後ろへ引き、 光の槍を、一条の稲妻に変える。
「これが──」
地面を蹴る。
音速を超える突進。
「──みんなで掴んだ、未来だっ!!」
光槍が、強獣の胸部中央──
砕けかけた鎧の奥へ、深く、深く突き刺さる。
一瞬の静寂。
次の瞬間、 光が爆発した。
強獣の巨体が、内側から弾け飛ぶ。
吠える間もなく、全身が光の奔流に呑み込まれ、 強獣は──完全に沈黙した。
煙の向こうで、ナズナは立ち尽くしていた。
肩で荒く息を吐きながら、 それでも、顔を上げた。
──終わった。
強獣は倒れた。
この街は、守られた。
ナズナは、そっと息をつく。
そして──静かに振り返る。
霧の向こう。 ヴァルミエと総一郎が戦っているはずの場所を、 強く、祈るように見つめた。
(……信じてる。)
仲間たちの戦いを。
彼らの、生きる力を。