
恐怖!!外せない仮面
1. 事件──その仮面は、女の顔を欲しがった
「ねえ、これ、変じゃない……?」
スマホの画面に映ったその顔は、明らかに“何かが張り付いていた”。
目の縁が黒ずみ、口元が異様に裂けている。顔全体に薄く透明な“皮膚のようなもの”が重なっており、まるで内側から顔を舐めまわされているような形状だった。
16歳の少女・綾瀬イロハは、実家の物置で古びた木箱を見つけ、そこに封印されていた仮面を「試しにかぶってみた」という。
──そして、それは外れなくなった。
「剥がそうとしたらね、皮ごとついてきて……。もう、自分の顔じゃないの。でも……うっすら笑ってる気がするの、この顔……」
2. 調査──“さかずら”と呼ばれたもの
ナズナが実家に到着したとき、仮面はイロハの顔に完全に癒着していた。
口の端には歯のような突起が浮き出ていて、目元には異常なまでのアイホールの窪み。鼻梁はない。あるのは、ただの呼吸音を吸うための穴だけ。
まるで「顔の概念」だけを模倣して作られた獣の面だった。
■ 綾瀬家の記録(旧蔵書『綾瀬隠聞録』より)
- かつて綾瀬家には、化粧師の家系が存在していた
- 特に女性の顔に“生き霊”が宿ると信じられ、仮面を“化粧して送り出す”儀式があった
- ただし、一体だけ“化粧されず”、封印された仮面があった
- それが「逆面(さかずら)」──人間に化粧されることを望んだまま死んだ霊が宿ると記されている
“さかずらに化粧を与えねば、女を求める。肌を剥ぎ、そこに宿り、ついにはその者の顔となる”
“されど、さかずらは良心を残す。音を聞き、笑みを浮かべるとき、怨念は沈み、仮面は剥がれる”
3. 推理──仮面は“化粧されること”を求めていた
ナズナは仮面をスキャンする。皮膚と同化し、角質層に似た組織が再生を繰り返していることがわかる。──仮面は「自らの顔面を成長させている」のだ。
そして、イロハの過去のSNS記録やスマホのAI解析から一つの可能性にたどり着く。
「ねえイロハ、その仮面ね……きっとあなたのこと、“綺麗だ”って思ったのよ。」
かつて誰にも振り向かれなかった“仮面の顔”。それは誰かに塗ってもらいたかった、笑ってほしかった、踊ってほしかった。でも、それは叶わなかった──だから、誰かの顔になりたかった。
4. 解決──踊り、塗り、剥がす
ナズナは提案する。
「塗りなさい、化粧を。鏡の前で、自分にするように、その仮面に……丁寧に、優しく、ちゃんと綺麗に。」
イロハは戸惑いながらも、口紅を、ファンデを、シャドウを塗り重ねる。そして──スマホでYouTubeを開く。
流れ出すのは、イロハが大好きだったアイドルの曲。思い出のダンス。少しずつ、身体が動き出す。
化粧された仮面の口元が、かすかに笑った。
──そして、
パリッ……
乾いた音とともに、仮面が、皮膚から音もなく剥がれ落ちた。
ただ、仮面の裏には──涙の跡のような染みが残っていた。
5. ナズナの語り
「よかったね、あれはまだ、“良心的な仮面”だったから。ただ、見てほしかった。塗ってほしかった。踊ってほしかった。それだけだったの。」
ナズナは言う。この世にはもっと“質の悪い仮面”がある。人を誹り、歪め、笑わせて、最後に二度と外れないまま──その人を“仮面そのもの”にしてしまう。
「でもこの仮面は、顔になりたかっただけだった。……哀れだけど、少しだけ、可愛いじゃない。」