
ナズナ、商店街の発狂する旋律を暴く
1. 事件──商店街のアーケードで、音が鳴る
ある夜、電脳探偵ナズナの元に、一通の奇妙なメールが届いた。
「ナズナさん、助けてください。 夜中、商店街のスピーカーから“音楽”が流れるんです。 ……でも、それを聴いた人が、次々と壊れていくんです」
場所は、とある地方都市にある古びたアーケード街「星河商店街」。
事件は、毎晩午前3時ちょうど。 シャッターが降りたアーケード内のスピーカーから、突如として“無人の放送”が始まる。
その旋律は、何のメロディとも言えない奇妙な和音。 しかしそれを聴いた者は、共通して数時間後に奇行を始める。
- 鏡に向かって延々と笑い続ける
- アーケードを這うように走り続ける
- 空になった店の棚に「まだある」と言って話しかける
ナズナは早速、星河商店街へと向かった。
2. データ収集──アーケードに残る“構造音”
ナズナは録音された音楽を、独自のAI波形分析装置にかけた。
結果、驚くべきことが判明する。
- 楽曲は明確なテンポを持たず、一定周期で“わずかにズレる”構造をしている
- 平均周波数は396Hz、これは“罪悪感と悲しみの開放”に対応する波長とされる
- しかも、周波波形の一部が“自然界の鳥のさえずり”に似ている
ナズナは商店街の古地図と、昔の祭りの映像を調査する。 すると、商店街の祭りには“特殊な音楽パート”が存在していたことが判明。
「祭りの終わりに、楽師が“見えない踊り手に向けて”奏でる最後の奉納旋律」
だが、5年前から祭りは中止され、その旋律だけが録音されていたものとしてスピーカーに残されていた──
3. 推理──これは“未完の儀式”だった
ナズナは全体を結び付ける。
「これは、音楽ではない。“不完全な儀式”が、構造音だけを残して再生されているのよ」
星河商店街の祭りは、実は遥か昔、 この土地で行われていた“古代信仰の儀式”を引き継いでいた。
火を灯し、食を奉じ、踊りを捧げ、そして──音を奏でることで、 “ある存在”を鎮めるための循環を維持していた。
だが、現代では形骸化し、踊りも火も捨て、音だけが残った。
その結果、「在るはずのもの」が行き場をなくし、 “音の中”で蠢いてしまった。
4. 仮説──再現された祭りと音の消失
ナズナは商店街の人々にこう提案する。
「もう一度、やりませんか? あの“祭り”を、きちんと。」
半信半疑の中、翌週──ナズナの監修のもとで、 商店街の人々による「復元された星河祭」が行われた。
露店の明かりが灯り、太鼓のリズムが響く。 コロッケが揚がり、焼きそばが香る。
そして、最後の奉納音楽が“人の手で”奏でられた瞬間── スピーカーから流れていた発狂音は、二度と鳴らなくなった。
5. ナズナの語り──音は記憶。儀式は、意味。
商店街のおばちゃんたちは、言った。
「ありがとうねぇナズナちゃん!ほら、これも持ってって!」
渡されたのは、紙袋いっぱいのコロッケ、たこ焼き、焼きとうもろこし。
ナズナは、食料難を完全に脱出した。
そして、ふと思った。
「音楽は、ただの“音”じゃない。 誰かの祈りで、誰かの記憶で、誰かの願いのかたち。 それが抜けたら、“音”は“呪い”になる。 だけど……ちゃんと祭れば、“祝福”になるのよ。」