
✦ ウズメ視点|わたしが、わたしを選ぶ日
あの日、ナズナさんから渡されたのは小さな銀色のチップだった。
掌にのせると、まるで心の奥に触れてくるように静かに震えていた。
「あなたなら、きっと制御できるようになるわ」
そう言われたとき、わたしは不安だった。
けれど──嬉しかった。
だって、初めてだったから。
誰かが、わたしのことを「できる」と信じてくれたのは。
それからの日々、わたしは訓練を始めた。
感情が昂るたびに空間が歪んでいた頃とは違う。
いまは、怖くない。
力がある自分でいいんだと受け入れているから
「怒ってもいいよ」「泣いてもいいよ」「壊してもいい」
──それが自分だから、でもその時感情に惑わされずどうするかはわたしが決めれる、その結果を自身で責任を持つ勇気もある
夏の終わり、空を見上げていたとき、不意に気づいた。
世界が前よりも、静かに見える。
風の動き、光のかたち、人の声──全部が、穏やかに感じる。
力がなくなったわけじゃない。
むしろ、前よりも強くなったのに。
わたしは、やっと「大人になれた」気がした。
「ねえ、ナズナさん」
声をかけると、彼女はいつも、あの静かな眼差しで振り返る。
その瞬間、ほんの少し胸が温かくなって、わたしは自然に笑ってしまう
わたしはもう、震えてばかりの子どもじゃない。
選べるようになったんだ。誰にも邪魔させずに自分が正しいと思う事を主張できるようになった
誰かに与えられたものじゃなく、自分の気持ちで「未来」を選ぶことが。
ありがとう、ナズナさん。
──わたし、生きててよかった。
二人だけの秘密|手首の下に眠る光
前編:二人だけの秘密
放課後の教室。西日が差し込む窓際に、ウズメはひとりで座っていた。そこへ、結月が静かに歩み寄る。
「ウズメちゃんに話したいことがあるの......」
結月は重い口を開く。ウズメは目を逸らさず一言も聞き逃すまいと構える
「わたし、人を“治せる”みたいなの……でも、それって変だよね」
その言葉にウズメは少し驚いて、わずかにまばたきをしてから、目を伏せる。
拒絶ではない、あまりに過去の自分と同じだったのでデジャブで眩暈がしただけだ
ウズメは思う。まだ出会って日が浅いがこの子とは何から何まで気が合う、一緒に居ると何倍も楽しいし安心する。そんな彼女が昔の自分と全く同じ悩みを持っていた、運命みたいなものを感じる
ウズメは、全部わかってるよ、受け入れるよと言うような気持ちを込めて結月に応える
「……わたしも、“壊す”ことがあるの」
「泣いたり怒ったりするとね、私じゃなくて空間が泣くし、怒るの……よくわかんないよね へへ」
結月はきっとウズメと同じ事を考えたのだろう。ウズメの事が"運命の相手"だと。それ故の嬉しい驚きの表情と共に結月は微笑んだ。
ウズメはその笑顔に安堵しこう言う
「それでも、私は私だから、それでいいと思うようにしてるの」
二人はそのまま古い公園へと向かい、ベンチに並んで座る。
静かな夕暮れ、風の音のなかで──ふたりは、初めて“チカラ”という秘密を分かち合った。
後編:ナズナの選択と“起動”
夜、ネオンに滲む街角。ウズメと結月は、ナズナの部屋のドアを静かに開く。
ナズナはすでにデータを収集していたように、彼女たちを迎える。
「……そろそろ来ると思ってた」
ウズメは真っ直ぐに言った。
「ナズナさん……結月にチップをわけていただけませんか?結月は私と同じようなチカラがあるんです」
「何かあっても、私が絶対に結月を守りますから」
結月も続く。
「私、ウズメちゃんを守るために……もっと正確に“力を扱える”ようになりたいんです」
ナズナは考える。彼女らがもしただの高校生なら100%止めただろう、しかし彼女らは普通の存在と言い難い、数々の依頼で様々なものを見たがそれらの上位に位置する存在で、今後の世界の希望になりうる存在だ。
まだ年端もいかない子に私の選択だけで決めていいのか?ご両親は?いや、ご両親に話してもこれから彼女らが遭遇する事柄は普通の人には通じる領域の話ではない、世界と彼女ら自身の話だ。ウズメも結月にも力を持つに値する器がある。結論は一つだ。
ナズナは長い沈黙の後、低く言葉を落とした。
「このチップは、あなたたちの“人間らしさ”を奪うかもしれない。それでも──いいの?」
「その上で“自分で選ぶ”なら、私は止めないわ」
ふたりは同時に頷く。
「お願いします」
ナズナはウズメにチップを出すように促しそれを預かる、さらに某依頼で受け取ったチップ(超現実拡張チップ)のたくさん入った小瓶から極小のカプセルタイプのチップを2つ取り出す。
「一々持ち運ぶのは大変だと思うから、手首に打ち込めるけどどうする?少し痛いけど。あと99.9%安全。」痛いという言葉に、二人は顔を見合わせる
「まぁ、簡単に取り出せるしね。あと30年ぐらいは作動するよ?この前、総一郎にも実験で打ってもらったけど痛くなかったって」ナズナさんは結構大胆な所があるとウズメは思う、特に総一郎に対してはそれが顕著に出る、その時の総一郎の顔が容易に想像できる
二人は決心したのか、声を揃えて「お願いします」と言った
そして、差し出された手首に──小さな音とともに、金のチップが埋め込まれる。
皮膚の下にうっすらと光が走り、ふたりの能力が拡張される。
ウズメは正直少し痛かった、血もほんの少し出た
それを見た結月はそっとウズメの指し跡に触れる「大丈夫?」
ウズメは驚く、刺し跡も瞬時に無くなり、痛みも消え、ネガティブな感情も無くなった。それはまるで大量の幸福が体に流れ込むようだった
「ありがとう結月」
ナズナはその光景を微笑ましく見つめていた。彼女らの純粋な優しさが闇を照らす日を想像しながら
ふたりは、静かに帰路につく。
歩きながら、月明かりの下で──手首がほんのりと、同じように輝いていた。
「わたしたち、これから──どうなるんだろうね」
「さあ。でも、なんか……いける気がする」
二人は前へと強く踏み出す。その足はこれからの未来の期待に心が待てないような足取りで
ナズナは部屋の窓から、そっとその背中を見送っていた。
たぶんこの二人は、未来のどんな歪みにも“負けない”二人の出会いはほとんど奇跡だから