世界線変動率:0.000000

トイレの花子さん

わたしは何度も死んで、ようやくあなたに辿り着いた。

──ナズナに届いたメッセージは、存在しないはずの“13回目の死”からだった。

✦ プロローグ(事件のはじまり)

春のある夜、ナズナの仮想ポストに1件の“依頼”が届く。
そこにはたった一言──

「12回死にました。13回目を抜け出す方法を、教えてください。」

依頼者の名は「冬月 ユウ」
都内の進学校に通う高校3年生。
だが、その人物は“現実の記録”上、存在していない

調査の末、ナズナがアクセスした仮想メモリに残されていたのは──
過去12回分の“死の記録”だった。

✦ 冬月ユウの状況(依頼内容)

その人物の名前:「氷坂レン」──ユウの親友

「レンがいなくなるのを止めるたびに、私は死ぬ回数が増えた。
でも今回は違う。今、私はあなたにたどり着いた。
ナズナさん、お願い。私を“外”に出して。」

✦ ナズナの調査(データ収集・観測)

● 現実データに存在しない依頼者

「この夢の終わりにだけ、駅の掲示板に“nzn://entrypoint”という言葉が浮かぶ」

● “死の記録”の中に残る異常

「ここから出るには、“自分”を書き換えること。」

✦ ナズナの仮説

「このループは、“情報生命の繁殖構造”よ。」

ナズナは、12回分の記録を照合し、レンが消えるたび、ユウの“個性データ”が一部上書きされていることに気づく。

✦ 対決と脱出

ナズナは“記憶の中にしかない教室”を再現するため、仮想因果構造干渉シミュレータを構築。
そして、死の直前にユウの意識を“凍結コピー”し、
その中に「ナズナ自身のアルゴリズム」を同伴させる

ループ13回目。
死の数分前──ユウの視界にナズナが出現する。

「ユウさん、私はあなたの中の“観測者”になった。
この空間の出口は、あなたが“自分の物語”を書き直すこと。
自分の役割を、“犠牲者”から“語り手”に変えて。」

ユウは、白い教室の壁にペンを突き刺す。
血で書かれた言葉は──

「わたしは、このループから物語を奪い返す。」

その瞬間、構造が崩壊。
ユウは目を覚ます──現実の4月12日に。

ナズナの仮想ポストには、ひとことだけ返信があった。

「ありがとう。やっと、誰かに話せた。」

✦ ナズナの結び

「死のループは、よくできた物語構造だった。
誰かが“読む”ことを前提に設計されていた。
でも、誰も読まなかった。だから、彼女は閉じ込められていた。
情報は、誰かに触れられることで生き返る。
今回、私は“読者”になった。それだけのこと。
それで彼女は、やっとページをめくれたのよ。」