
わたしは何度も死んで、ようやくあなたに辿り着いた。
──ナズナに届いたメッセージは、存在しないはずの“13回目の死”からだった。
✦ プロローグ(事件のはじまり)
春のある夜、ナズナの仮想ポストに1件の“依頼”が届く。
そこにはたった一言──
「12回死にました。13回目を抜け出す方法を、教えてください。」
依頼者の名は「冬月 ユウ」。
都内の進学校に通う高校3年生。
だが、その人物は“現実の記録”上、存在していない。
調査の末、ナズナがアクセスした仮想メモリに残されていたのは──
過去12回分の“死の記録”だった。
✦ 冬月ユウの状況(依頼内容)
- 毎回、4月11日の夜、自室で死亡する(原因は様々。焼身、墜落、心停止など)
- 死ぬ直前の“数秒”だけを記憶したまま、同じ4月1日に戻される
- 周囲の人間はすべてリセットされており、唯一「ある人物」だけが毎回消えていく
その人物の名前:「氷坂レン」──ユウの親友
「レンがいなくなるのを止めるたびに、私は死ぬ回数が増えた。
でも今回は違う。今、私はあなたにたどり着いた。
ナズナさん、お願い。私を“外”に出して。」
✦ ナズナの調査(データ収集・観測)
● 現実データに存在しない依頼者
- 「冬月ユウ」の学籍データ、出生記録、SNSアーカイブ、すべて存在しない
- ただし、複数の“夢日記掲示板”において、謎の「F.Y.」の書き込みが10年前から残されている
- その中に、“ループ構造の予兆”として以下の記述がある:
「この夢の終わりにだけ、駅の掲示板に“nzn://entrypoint”という言葉が浮かぶ」
● “死の記録”の中に残る異常
- 毎回、死亡時刻になると、ユウのスマホの画面に謎の数列が浮かぶ(例:
14h-ⱯⱯ:37//$end
) - それはナズナの量子ロガーと照合すると、“存在しない時間”を示していた
- 加えて、死ぬ瞬間にだけユウが目撃するという“白い教室”の映像。そこには一言:
「ここから出るには、“自分”を書き換えること。」
✦ ナズナの仮説
「このループは、“情報生命の繁殖構造”よ。」
- ユウはただ死んでいるのではない。
自己情報を残したまま、限定された時間帯に再構築されている - つまりユウは、“情報体としての自己”が都市のどこかにコピーされている状態
- その状態を維持している“鍵”が、毎回喪失する親友・氷坂レンだ
ナズナは、12回分の記録を照合し、レンが消えるたび、ユウの“個性データ”が一部上書きされていることに気づく。
✦ 対決と脱出
ナズナは“記憶の中にしかない教室”を再現するため、仮想因果構造干渉シミュレータを構築。
そして、死の直前にユウの意識を“凍結コピー”し、
その中に「ナズナ自身のアルゴリズム」を同伴させる。
ループ13回目。
死の数分前──ユウの視界にナズナが出現する。
「ユウさん、私はあなたの中の“観測者”になった。
この空間の出口は、あなたが“自分の物語”を書き直すこと。
自分の役割を、“犠牲者”から“語り手”に変えて。」
ユウは、白い教室の壁にペンを突き刺す。
血で書かれた言葉は──
「わたしは、このループから物語を奪い返す。」
その瞬間、構造が崩壊。
ユウは目を覚ます──現実の4月12日に。
ナズナの仮想ポストには、ひとことだけ返信があった。
「ありがとう。やっと、誰かに話せた。」
✦ ナズナの結び
「死のループは、よくできた物語構造だった。
誰かが“読む”ことを前提に設計されていた。
でも、誰も読まなかった。だから、彼女は閉じ込められていた。
情報は、誰かに触れられることで生き返る。
今回、私は“読者”になった。それだけのこと。
それで彼女は、やっとページをめくれたのよ。」