
ナズナ、消える記憶と夏の怪──少年探偵団と七つ目の不思議
1. 事件──「ナズナさーん、助けてください!」
「なずなさんへ」
こんにちは。ぼくたちは、○○小学校の“しょうねんたんていだん”です。
うちの学校では、七不思議がほんとうにおきているんです。
でも、こわくて、さいごの一つがわかりません。
ナズナさん、ぼくたちのかわりにしらべてください。
差出人のない、鉛筆書きの手紙。
ナズナはすぐに電車に乗った。
その小学校には、彼女がかつて少しだけ通ったことがある記憶が、うっすら残っていた。
2. データ収集──「これが、七不思議の地図です!」
ナズナを迎えたのは、小さな“少年探偵団”の4人の子どもたち。
「これが、ぼくらのつくった“七不思議のちず”です!」
「見てください!ほんとうに動いたんです、石こうぞうが!」
「校長室の鏡に、知らない顔がうつったんです!」
子どもたちは真剣だった。そして、どこか懐かしい──
ナズナは、自分が昔、教室でひとりでいた日々を少し思い出していた。
七不思議のリスト(少年たちのノートより)
- 音楽室のピアノが夜中に鳴る
- 水道の蛇口が勝手にひらく
- 図工室の石こう像が首を動かす
- 体育倉庫から足音がする
- 放送室から勝手に音が流れる
- 校長室の鏡に見知らぬ顔
- 「七つ目は、しらべるとわすれてしまうらしい」
3. 推理──「七不思議が、六つしか思い出せない?」
ナズナは、少年たちの観察メモと学校の過去資料を読み解いていく。
1~6までの怪異はすべて物理的な現象と心理の誤解で説明できた。
だが──七つ目だけが、存在の証拠すらない。
誰に聞いても、「七つ目ってなんだったっけ……?」と首をかしげる。
「ねぇ、七不思議って、ほんとうはいくつあるの?」
「え? ……ろ、ろくつ?」
少年探偵団のメンバーですら、七つ目を思い出せない。
4. 仮説──「七つ目の怪は、“忘れること”そのもの」
ナズナは気づく。
この“七つ目”は存在しないのではない。
「七つ目を調べようとすると、七不思議そのものを忘れる」
つまり、「七つ目とは、七不思議が記憶から消える怪異」。
自己暗示による記憶の上書き。
人は「忘れてはいけない」と思えば思うほど、記憶を保護するために自動的に削除してしまう。
「それは呪いなんかじゃない。
ただ、こわいものを“こわいまま”にしておきたくて、脳が“鍵をかけた”のよ。」
5. ナズナの語り──「その鍵の奥にあったもの」
わたしにも、思い出せない七つ目がある。
それは、子どもの頃に体験した“何か”だったかもしれない。
でも今、少年たちが笑って「全部なかったんだ!」って笑う声を聞いて──
わたしも安心したの。
七つ目は、こわくなくなったら消えるのよ。
少年探偵団の子たちは、
ナズナに紙袋いっぱいのラムネと、手作りの感謝状をくれた。
「ありがとう、ナズナさん。これで、もう夜にトイレ行けます!」
ナズナは微笑み、小さくつぶやいた。
「あのときの、わたしも……そうだったのかもね」
🌻ラスト一文
七つ目の不思議──それは、こわかった記憶を“笑い話”に変えられる力。
少年たちは今日、それをほんとうに“解決”したのだった。