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宇宙人の村

渋谷の怪人──スライム型異形生命体とナズナの対決

――渋谷の闇に蠢く“生きた呪い”を、電脳探偵ナズナが暴く

【第1章:事件】──“それ”は、夜の渋谷に滲み出す

ある深夜、センター街で「ぬるぬるした黒いものに触れた」と語る若者が、
突如精神錯乱を起こし、意味不明の言葉を残して消息を絶った。

「あれは……都市の影。渋谷の地面が、喉を鳴らして笑った……」

その後も、「地面から溶け出した何かに捕まれた」「壁が生きていた」といった証言が相次ぐ。
SNS上ではそれを“スライム怪人”と呼ぶ者たちが現れ、動画が投稿され始める──
だが、すべて24時間以内に削除。アカウントも消失し、記録すら残らない。

現地を訪れた霊感のある人物が口を揃えてこう言う。

「あそこには“視えない穴”がある。入ると、渋谷じゃない場所に引きずり込まれる」

ナズナはこの報を受け、調査に乗り出す。
だがこの事件は、ただの都市怪談ではなかった

【第2章:データ収集】──異界からの滲出

ナズナは渋谷区の旧地下マップ電磁波異常記録都市音響記録下水道侵入履歴
そして戦後の占領記録まで含めたビッグデータを照合した。これに用いたのはTASK-Vに貸して貰っているANEIというAIを使用したOSの特殊なデバイスだ

浮かび上がったのは、“1951年、GHQ統治下の封印作業”の記録だった。

さらに、ナズナが独自にANEIのデバイスを稼働させると、
2時13分以降の渋谷の特定エリアでだけ、カメラ映像に不自然な“揺れ”と“粘性の反射”が検出された。

生物的反応──ではない。
物質的変容──でもない。
情報そのものが“粘り始めている”

【第3章:推理】──粘性情報体、それは都市の“呪い”

ナズナの推理はここから、オカルト的領域に踏み込む。
このスライム怪人の“構造”は、以下の3要素に分解できる:

  1. 都市の記憶に粘着する情報生命体
  2. 物質ではなく“言葉”を喰う存在
  3. 情報の流れを侵蝕し、やがて形を持つ

  つまり “都市が疲弊した時に出現する、異界の何か”。

欲望、焦燥、不安、夜の光、群衆の孤独……
それらが情報として渦巻くことで、都市そのものが弱体化し“異界との接点”が綻び、何かが出現するようになった

ナズナはこの存在を「記憶粘着型思念体(Thought Slime)」と名付けた。

【第4章:仮説】──都市に生まれた“異界の腸”

ナズナは仮説を打ち立てる。

「スライム怪人」は、渋谷の地に眠る異界の“腸”だ。

腸──それは本来、消化し、吸収し、排出する器官
ならばスライム怪人は本人が望まぬうちに、「都市に溜まりすぎた“思念の残渣”」を分解する役割を担うようになったのでは?

だが、“それ”が飽和するとき、渋谷は逆に“飲み込まれる”。
都市そのものが、異界の胃袋に変貌する──

そして最終段階に入ると、スライムは人間の「言葉」を食べ始める。

最終的には、“自分という記憶”が溶け出していく。
その人物は、完全に消える。

【第5章:対決】──境界を越えた“言語なき対話”

ナズナは、自作の霊的ARレンズと超低温センサーを組み合わせた“霊的撮影ドローン”を現地に投入。
渋谷の下水のドローンが映し出したのは、ゆっくりと這いずる黒いスライム状の情報体

その体内には──多数の“目”と、溶けかけた人間のような“顔”が浮かんでいた。

ナズナは生まれつき異次元や霊界など様々な世界との互換性があり会話や視認ができる、ドローンについてるマイクで接触を試みた。

「……あなたは、なぜここにいるの?」
「ワレ……ヒトノアマリ。タベキレヌ、ネガイノアト」
「あなたは、私たちの何を望んでいるの?」
「モット、タベタイ……オマエノ、ナカミ……」

ナズナはANEIのデバイスでSNSなどのリアルタイムの話題を渋谷近辺に誘導し、“異界の腸”に大量のデータを注入をした。
膨大過ぎる量の渋谷に集まった思念は、スライムにとって消化できない毒変化した。

苦しむように身をよじり、スライムは渋谷の地下で溶けていった。
その日以降、異常はぴたりと止んだ。

【ナズナの結び】──だが、都市はまだ呼吸している

スライムは去った。
だがそれは、都市という存在の負のエネルギーがそれを専門とするスライムですら受け付けなかったということになる。

渋谷は、今も人の欲望を受け入れ、言葉を飲み込み、夜の下で発酵を続けている。

君が深夜、センター街の地面に光るぬるりとした黒いしみを見つけたら──
それは、渋谷の胃袋が再び空腹を訴えている合図かもしれない。