
この空に、あなたを想って。
1|依頼──この想いが、きちんと届くなら
ナズナさんへ
こんにちは。私は高校二年生の、ただのふつうの女の子です。
今日はお願いしたいことがあって、メールを送りました。
私には好きな人がいます。
前から気になってた人です。
でも、それだけじゃありません。
この前の夜、校舎の屋上で一緒に星を見たんです。
その時、私は人生で初めて奇妙な感覚になりました
---彼の周りの時間が止まるような---
---瞬きすら遅くて---
---その瞬間から全ての風景が輝き出して---
---私の心の中は、何かを手に入れたような....もうひとりじゃない....満たされている---
そんな感覚でした
その時、気づきました。これが、本当の恋なんだって
そんな気持ちを全部、手紙に書きました。
自分でも読み返すと恥ずかしくなってしまいます。
正直、変だったらどうしようって怖くて
だから、ナズナさんに見てもらいたいんです。
ちゃんと、まっすぐに届くかどうか。
そして、もし大丈夫なら──
彼に渡してほしいんです。
2|手紙(本文)
○○くんへ
この手紙を読んでいるあなたは、どんな表情をしてるのかな。
笑ってる? 驚いてる? それとも、ちょっと困ってる?
それでも、私は本当にどうしても
あの夜のことをあなたに伝えたかった
校舎の階段をのぼって、
誰もいない屋上に着いた瞬間、風がふわりと吹いて
空が近くて、ひらけていて、
まるで宇宙がすぐそこにあるみたいでした
星が降ってきそうだったよね
あなたと並んで座って、黙って空を見てた時間
何も起きてないのに、心だけがどんどん膨らんでいって
こう思いました
"ずっと私だけの隣にいて欲しい"
ただそれだけの気持ちで胸がすごく痛くて.....
あなたの声
あなたの笑い方
指先の動き、髪の揺れ方
そのどれもが
頭の中で何度も再生されてしまうんです。
あなたが頭からずっと離れません
星よりも小さなきっかけで
私はあなたを好きになって
星よりも大きな気持ちが
今の私を作っています
好きです。
言葉じゃぜんぶ言えないくらい
大好きです。
今すぐあなたに会って抱きしめたいぐらい......
変ですよね......こんなの ふふ
もしあなたが、この気持ちを
少しでも受け取ってくれたなら
いつかまた、あの屋上で
同じ空を見られたらいいなって思います
あなたと二人で満たされた気持ちで見るあの景色は、どこかの世界のお姫様も羨むと思います
私の世界に奇跡があるとしたら、それは..........恥ずかしいのでやめておきます
星は、願いを叶えるって言うけど、
私は今、この言葉にすべての願いを込めます。
好きです。
本当に好きです。
どうか、あなたが幸せでありますように
3|ナズナの読後──
手紙を読み終えたとき、
私は、少しだけ息を呑んだ。
空気が柔らかくなったような気がした。
恋って、こんなにも綺麗なんだ......
頬があつい。
目を逸らしてしまうほど、
この手紙は、まっすぐ過ぎた。
「……うん」
私は言った。
「……大丈夫。ちゃんと届くよ。」
これは、誰にも真似できない、
世界でたったひとつの“恋そのもの”を表現した手紙だと思った。