
始まりの島 序章
Prologue|依頼
──あの島に、もう一度行ってほしい。
そう言ったのは、都心の超高層ビルにオフィスを構える大富豪だった。高齢で声に芯を持っていたが、指先は震えていた。彼はナズナに、古びた紙の地図を差し出した。
「私が若いころ、あの島にいたらしい。だが、理由も滞在期間も、なぜか思い出せない。ただ一つ覚えている。少女がいた。彼女と……一緒に島を抜け出そうと話していたんだ」
依頼は明確だった。島に行き、廃病院を調べ、その少女の痕跡と、当時何が行われていたかを記録してほしい。
二つ返事で承諾した。
しかしこの時、私はまだ理解していなかった.....この島がどういうものかと
第一章|島
小型のフェリーに揺られ、波に揺られながらナズナは島に向かった。
上陸した島は、まるで島全体が息をしてないような瘴気で溢れかえっていた。地図にない地形、苔むした標識、そして森の奥にそびえるコンクリート造の巨大な病院──
施設名:D13号施設。
ナズナはひとしきりあたりを見回してその施設へ向かった。その際人や動物何一つ存在しなかった
歩く歩く、道なき道を歩く。まるで虫や木々にそのまま進んでいいのか?と問いかけられているような静かな視線を感じた
到着。廃墟とは思えないほど保存状態がよく、建物は静かに口を閉ざしていた。
第二章|廃病院の真実
内部には診察室、手術室、看護記録、廊下の床……。
埃ひとつなく、ただ「動いていないだけ」の空間。
ナズナは地下へのエレベーターを非常階段で降りた。そこには生体隔離室と記録保管庫があった。
古びたログ端末には、こう記されていた:
【TASK-V作戦ログ D13-223】
対象:非因果性生命体(コード名:ヴァリオン)
状態:空間認識を攪乱、収容失敗。追跡部隊壊滅。
対処:ANEI接続許可、境界調整処置へ
──ANEI。
ANEIは本来、メガシティ“葦原”全域の交通・気象・経済・市民ライフを最適化する、政府直轄の超AIだった。
だがここでは違う。ANEIはこの島で、異界の接続監視を担わされていた。
第三章|記録の深淵
ナズナは、記録の中に“ある名前”を見つける。
■適応判定記録:
被験体013──判定:非適応、記録削除処理、返還
被験体014──判定:適応あり、観測継続中
「.........これは....」ナズナは真相を見つけた。しかしその内容は救いの無いものだった。 ※備考:013=依頼人と思われる
記録者 ゼオル・ヴァレリウス
ナズナの胸に、鈍い痛みが走る。彼は「異界に適応できない凡人」として送り返された。少女だけが残された。
その後も目を背けたくなるような作戦ログが続いた。
- ウエノバイオケミカルが開発した「構造拡張薬」によるクリーチャーの巨大化事故
- 異界言語が院内拡散し、物理法則が変質
- 観測者のうち4名が“記録そのもの”になって消失
最後のファイルにはこう記されていた。
■フェーズII作戦:
作戦継続決定。
新設拠点:「地下型対異界観測区域(仮称ファントム)」
完成予定:202X年 第3期
備考:ANEI再配置、TASK-V新部隊“Reverberate”編成中
──終わっていない。島の実験は、新たな地下島で再開されようとしていた。
第四章|退避
ナズナはすべての記録を手帳に転写し、島を後にする。
今の自分では、この真相に抗えないと判断したからだった。
帰りのフェリーの甲板で空を見上げたとき、島で見たものを思い出し気分が悪くなった。
全身で受ける潮風、あの忌まわしい島から脱出できた解放感、自分の知らない深い闇を知ってしまった嫌悪感。
それらすべてが絡んで自分はホラー映画の主人公で今はエンディング付近、そんな感じがした。
最終章|報告と起動
大富豪は報告を聞くと、長く沈黙し、静かにうなずいた。
「……あの子が、適応者とやらに選ばれてたのか......
しばらく沈黙した後、彼は何か悟ったような眼差しでこちらを見た
君は、ここまで一人で辿り着いた。
もしかすると、何かを変える力があるのかもしれない。
必要があれば、連絡を──」
その後、ナズナの元に一人の男性が現れた。
「姉ちゃん、やるじゃねーの。」
「俺は九条 凛。おっさん(依頼人)の専属探偵だ。
若けぇのによくやるぜ。あの島はやばかったろ.....? 」
「並みじゃねーよ、ほんと姉ちゃん人間か?まぁ、おっさんも気に入ったみたいだし、なんかあったら俺に言ってみろよ、少しは助けてやっから」
軽い口調の男だが、眼光や所作に時折鋭さが光る。しかし、話す内容や嘘のついてない表情から考えると悪い人間ではなさそうだ」
夜。
ナズナは今日見たことを思い出し、少し考える
今の私には荷が思い.....沈んだ気持ちのまま、いつの間にか眠りについた