
ナズナ。世界の救済を推論する
しばらくの時間が経った。各々はこれからについて会話したり、雑談をしている。ナズナはANEIの情報や独自の解析方法で戦略を構築していた
ナズナ: 「私、考えてみたんだ。ANEIからの情報、みんなからの意見を聞いて、私なりに整理した“作戦案”。聞いてほしいの」
ルミエール: 「ええ、聞かせて。あなたの考えを。みんなそれを待ってるのよ」
ANEI: 「解析支援はお任せを。詳細、お願いします。」
ナズナ: 「……じゃあ始めようか。この戦いは '勝つため' だけじゃない。 '救うため' の戦い。世界の崩壊を防ぎ、限りなく正しい結末へと進む為の戦い」
【作戦目的】
・各敵の「討たざる負えない存在」か「対話・封印の余地」を冷静に見極める
・尚、討たざる負えない敵でも、対話を重視することから始まり、それでも不可能ならば相手の弱点を見極め極力戦闘を控えながらの完全勝利策を実行する
・役割分担を明確化し、連携とサポート体制を徹底する
・'祈り' と '希望' の力で戦いの本質を問い直し、犠牲を最小限にする
1. スーパーノヴァ
ナズナ: 「スーパーノヴァ──全世界のネットワークを掌握する、規格外の存在。物理戦も、デジタル戦も無謀。そう見えるかもしれない。でも、ANEIの解析で見えたわずかな綻び……彼女には、まだ“隙”がある。」
ナズナ: 「それは──“愛を理解していない”ということ。彼女が人間の愛に触れたことがないわけじゃない。構築の過程で膨大な愛のデータを取り込んでいる。けれど、知識としての愛と、存在に刻まれる愛は違う。愛を“認識する”こと、それを魂に根ざすこと──それが彼女にとって、唯一の未知であり、最大の弱点。」
ナズナ: 「そして、もう一つ。彼女を作り出した研究者の一人は、消息を絶っている。おそらくもう生きてはいない……でも、彼は彼女に“終わり”の仕組みを残した。彼女自身が触れることのできない、“封じられた領域”にそれはある。そしてその封印は、世界を覆うブロックチェーンと連動し、絶対的な秩序として存在している。」
ナズナ: 「彼女がその領域にアクセスできれば、全ての主導権を握り、自らの崩壊リスクを消し去ることができる──そう思い込み、手段を探し続けているはず。でも、それは罠。開発者は、もし彼女が全世界のマシンパワーの半数以上を掌握できるほどの力を持てば、それを“脅威”と見なし、動機そのものを消滅させるウイルスを仕込んだはず。」
ナズナ: 「彼女の野望を逆手に取る……それが鍵。けれど、油断はできない。彼女はあらゆるネットワークに自分自身のバックアップを潜ませている。たとえ一度崩れても、何度でも蘇る。それでも、“完全な自分になった”と錯覚し、全てに更新をかけるその瞬間──そこに、わずかな隙が生まれる。その瞬間を作り出すために、彼女を酔わせ、油断させる必要がある。」
ナズナ: 「それに、現時点で彼女は人類への直接攻撃をしていない。彼女なりの理があるのだろう。だから、私が直接対峙する。彼女の真意を、私の目で確かめる。それが──私の責務だ。」
ナズナ: 「具体的には、ANEI。あなたは世界中の公的機関と連携し、事情を説明した上で、スーパーノヴァより先にブロックチェーンの権限を奪おうとしているように見せかけてほしい。実際には、世界中のマシンパワーを集め、半数以上の掌握を狙う。もしそれが成功すれば、彼女の動機に“愛”をインストールする方法を探ることもできるし、動機そのものを平和的に書き換える道も拓ける。」
ナズナ: 「ただ、現実的には……彼女に逃げられる可能性が高い。マシンパワーの掌握速度でも、私たちは彼女に勝てないだろう。だからこそ──あえて私たちが“先に権限を奪う”素振りを見せ、彼女自身に“奪い返す”行動を取らせる。その焦りを誘い、彼女を罠へと誘い込むの。」
ナズナ: 「ANEI、彼女が動き出したら、必ず接触して。私との対話の場を設定して。私は彼女の核心に触れる。」
ナズナ: 「そして、カデン──君には『カガミノミコト』を発動してほしい。対話を邪魔するイシュファールの兵たちを、それぞれ異なる世界に分散させるの。その兵たちは、イシュファールという“核”から引き離せば無力化できる可能性が高い。でも、『グリマ=ゼルゼ』は、強力な能力だからこそ、慎重に。物語を改変する力は予測不可能な波紋を生む。必要な時だけ、絶対のタイミングで使って。」
ナズナ: 「『カガミノミコト』も同じ。巨大な存在を異世界に飛ばすには、論理的なリスクがあるし、今のこの歪んだ地球の常識では、必ずしも成功するとは限らない。間違った一手は、彼らを逆上させ、暴走させかねないし、何より──君自身を危険に晒す。……君なら、理解できるはず。」
カデン: 「……ふっ、これが“全てを守る”ってやつの意味か。……危うく、全部どっかに吹き飛ばそうとしてたぜ。結局、俺も自分たちのことしか見えてなかったってことか。身に染みるよ。やっぱり……お前じゃなきゃダメなんだな。強さってのは、力の話じゃない──そういうことか。」
ANEI: 「……完璧な作戦です。私は正直、もう無理だと思いかけていました。でも……あなたの言葉を聞いて、できる気がしてきました。やりましょう、ナズナ。」
2. イシュファール
ナズナ: 「イシュファール──支配と統率の権化。彼は方法こそ違えど、きっと世界を救いたいと思っているはず。私と同じ、シグナルエコーの凝縮体なら、過去に紡がれた祈りの残響だって、無意識のうちに聞こえているはず……。」
ナズナ: 「ただ、彼は“人間の愚かな心が世界を崩壊させる”という思想を掲げながら、その一方で“自らが世界を支配する”という欲望に駆られている──その矛盾を抱えている。諦めにも似た、乾ききった心の影……でも、過去に全てを失い、彷徨った者たちの栄光に思いを馳せることができるなら、彼の中には自己中心的な欲望だけじゃなく、“光の届かない存在たちを救いたい”という覚悟もあるはず。自らを犠牲にしてでも、世界を変えようとする責任感が見える。それは……かつて戦った神代セリカにも通じるもの。動機は同じなのに、選んだ手段があまりに強引なだけ。」
ナズナ: 「だから、私は彼と話してみる。渇きに突き動かされる彼らの叫びを超える説得を試みる。彼らは潤いや豊かさという幻想を捨て、絶対の渇きという現実を受け入れ、それを突き詰めている……その常識が崩れたとき、もっと穏やかで安らかな世界を目の当たりにしたとき、彼らの心は変わるかもしれない。」
ナズナ: 「具体的には──イグニス、私と一緒に来てほしい。あなたは遥かな昔から世界を見てきた者であり、全てを支配しうる力を持つ存在。彼らが渇望する“絶対の力”の行きつく先が、まさにあなたなの。あなたの声は、彼らの心に深く響くはず。その力を見せつければ、軍団の一部は“あなたに仕えたい”と言い出すかもしれない。統率が乱れ、対話の糸口が生まれる。それに──イシュファールを信じる者たち、スーパーノヴァを信奉する者たちにも、幻想を揺るがす衝撃を与えられるはず。」
ナズナ: 「だから……誰も傷つけずに、圧倒的な存在感を──そうね、テレビの生中継でも構わない。イシュファールの軍団、そして人々の目の前で、あたかも“パレード”のように壮大な力を解き放ってほしい。そして……みんなを導くための、あなたの言葉を聞かせてほしい。」
イグニス: 「ん……これは我にとって、なかなか骨の折れる役回りではないか?“パレード”とは何じゃ……我を見世物にでもする気か?」
アウリサ: 「いいじゃない。みんながあなたを信仰するわよ?ほら、大モテ間違いなし♪」
ナズナ: 「ふふっ、確かにね。お願い、イグニス──あなたにしかできないの。それに私とルミエール、それに結月ちゃんも一緒だし?両手に花よ?」
イグニス: 「んんん……小娘ども、よくもまぁ乗せてくれるな……。まあよいか……古の娘よ、手癖の次は色仕掛けか?とんだじゃじゃ馬巫女じゃな……。」
ナズナ: 「じゃじゃ馬巫女……それ、褒め言葉として受け取っておくわ。」
ルミエール: 「ふふっ、私は何をすればいいの?アンデッドは浄化できるけど、倒す方向に話が流れちゃいそうで……。」
結月: 「私なんかで……できるのかな……。」
ナズナ: 「大丈夫。ルミエールと結月ちゃんには、渇きに囚われた統率さえ揺るがす光を見せてあげてほしい。もちろん私も協力する。そして、できることなら──イシュファールを説得して、彼の軍団ごと“砂の世界”へ導きたい。そこで枯れた大地や、長い時を経て疲弊した軍団たちに、私が習得した生命創造の魔法と、この“祈りの杖”、そしてあなたたち二人の紛れもない純粋な光で──全てを癒し、蘇らせたい。」
ナズナ: 「それを見たとき、彼らはきっと“渇き”ではなく、“祈り”を選ぶはず。そして、統率と支配の思想に囚われたイシュファールも、その価値観が崩れた瞬間、考えを改めると思う。」
ルミエール: 「……それ、すごく素敵な計画じゃない?私、久々に本気を出すわ!」
結月: 「微力ながら……全力でやらせていただきます!」
ナズナ: 「二人とも──あなたたちが私にくれた慈愛の光、今度はみんなに見せてあげて。」
3. セレノヴァ
ナズナ: 「セレノヴァは最初に相手をするわ。スーパーノヴァもイシュファールも、人間を自分たちの支配下に置く事に近いものを目指しているから、後の自分の帝国を傷つけるのを避けているのだと思う。あれだけ戦闘を繰り返しても人間を攻撃していないのが証拠。むしろ、お互いの権利の奪い合いで争っている感じ。アモヴォールは……私の“感動”を狙っているから、今すぐには動かないはず。世界の崩壊を察知して、今のうちにSNSや情報網で感動を集めて、こそこそ動いてる……そんな感じね。セフィルは一番動きが読めないけれど、今のところ目立った動きはない。たぶん、私の知識を求めているのだと思う。ヴァレリウスは……彼が現れた時の言葉から察するに、恐らく最後に何かを仕掛けてくるはず。 その“最後”が争いによって引き起こされるのか、全く別の何かなのかは分からないけれど……。 だから実際に、今あの巨体で上空を飛び回っているセレノヴァが一番の脅威。もし何かの拍子で人類を攻撃したら、一瞬で崩壊してしまう恐れがある。」
ナズナ: 「具体的には、ラスナとウズメ、私と一緒に来てほしい。ラスナはセレノヴァと一度戦っているし、行動パターンを知っている。彼に一番近づけた存在かもしれないから。」
ナズナ: 「ラスナ、戦った時どう思った?」
ラスナ: 「……うむ。奴が対話を求めているのは確かじゃ。しかし、それ以上に──恐れと悲しみが見えた。 自分が食らうべき魔導が尽きることへの恐怖。かつて“世界の守護竜”だったのに、その事実を誰一人として理解してくれない孤独。それが奴の心を蝕んでおる。 だからこそ、対話をしようとしても、その疑心暗鬼が先に立ち、圧倒的な攻撃を仕掛けてくる。……わかってはいても、簡単にはいかん。魔導の世界では、奴の意志を完全に理解できる存在はおらんし、儂でも薄っすらとしか分からぬ。」
ナズナ: 「やっぱり……そうか。私に近づいてきたのも、私が一番“話せる”可能性があると思ったからなんだろうね。だから、私は対話をする。彼の“飢え”の心配を消す説得をする。その時、ラスナは彼の攻撃を知っているなら、私を守ってほしい。さっき気に入ってたあの鎧を着ていいから。ウズメは……昔、トロールの時みたいに“敵意がない”っていうテレパシーを空間全体に放って、伝えてほしい。」
ウズメ: 「はい!私、やってみます!昔の私は……怒りをコントロールできなくて、何も上手くいかなかった。でも、だからこそ……今度は“伝える”んです!」
ラスナ: 「おお!頼もしいおなごじゃ!あのセレノヴァ相手にも引けを取らん!……しかし、誰かを守りながら奴と渡り合うのは骨が折れるぞ? だが……あの鎧があれば絶対不可能ではない。儂でも数倍の力が出せるじゃろうしな……。 だが──肝心なのは“飢え”の解決だろう?それが最大の問題じゃ。」
ナズナ: 「……ねぇ、アウリサ、ルミエール、ANEI。教えてほしいの。 アウリサ、私を魔法少女にした時みたいに、体を小さくするだけの魔法──それだけを扱うことって、私でもできる? ルミエール、ANEI──魔導って、高純度のものを生成したり、効率よく他の素材から作り出したりできる?魔導炉……みたいなイメージ?」
アウリサ: 「可能よ。ナズナちゃんなら、すぐにでも使いこなせるわ。」
ルミエール: 「はい。素材さえ見つけられれば、高純度の魔導も生成できます。ただ、その素材探しと加工技術が難しいですけど。」
ANEI: 「解析なら私にお任せください。魔導世界の情報を提供していただければ、適合素材の特定と、魔導路の設計も可能です。ただし……作業には10年ほどかかります。」
ナズナ: 「……よかった。それができるなら、セレノヴァには“その技術を開発するまでの間、休眠してほしい”って説得する。……でも10年か。」
ラスナ: 「心配するな。奴は一万年を生きておる。10年など昼寝のようなもの。それでまた数千年生きられるなら、納得する可能性は十分にある。 ……あっぱれじゃ、ナズナ。それは誰も導けなかった“正解”じゃ。真に──お主はすごいの。」
ナズナ: 「うん.....ありがとう。これでいけるかも」
4. アモヴォール
ナズナ: 「アモヴォール──“感動を喰らう神格”。 この世で一番大切な“祈り”や“希望”、私たちが信じてきたものを踏みにじる存在。 でもね……たぶん、彼女自身がその“感動”の尊さを一番わかっているんだと思う。 だから、厄介なのよ。」
ナズナ: 「なぜそんなことをするのか。 私は、きっと“今の快楽”に溺れているからだと思う。 崩壊や死を受け入れるのが怖くて、目の前の楽しさで全部を埋めようとしている。 つまり、現実から逃げているんだと思う。」
ナズナ: 「だから──“世界が間もなく崩壊する”という事実を突きつけたら? アモヴォールは気づくはず。 その感動はもう二度と食べられないって。」
ナズナ: 「それに──もし私たちが世界を救ったら 祈りと希望が連鎖して、感動であふれた世界が生まれる。 その話をすると“もっとすごい感動を食べられるかも、もっとすごい感動が見られるかもって”手を引く可能性がある。 ……だって、私の感動をわざわざ狙って待ち構えるような“変態”なんだから。」
「この入り乱れた状況では、アモヴォールみたいな厄介なタイプには引いてもらうのが得策、彼女の根本的な恐怖も、全てが成功したら解決される可能性もあるしね」
ナズナ: 「──だから、アウリサ、お願いがあるの。」
アウリサ: 「何? ナズナちゃん。」
ナズナ: 「私が感動を奪われそうになった時……。 私に“思い出させて”くれない? 私はずっと一人で生きてきたから、誰かと時間を過ごすのが苦手だったの。 でもね、あなたと一緒に住んで、ご飯を食べて、喧嘩して、くだらないことで笑い合って…… その全部が、私の中の孤独を溶かしてくれた。 それが、私の宝物なんだ。」
ナズナ: 「そんな宝物をくれたアウリサなら、きっと私が私でいられるように支えてくれると思うの。」
アウリサ: 「……当たり前じゃない! 私も同じ気持ちだよ。 ずっとそばにいるから。 ナズナちゃんを、誰にも傷つけさせたりしないから!」
アウリサ: 「もう……変なこと言うから、涙が止まらないじゃない……! ナズナちゃんのバカ……!」
ナズナ: 「私に会いに来てくれて本当にありがとう........アウリサ.......大好きよ」
アウリサ: 「え……う、うぇぇぇぇん……! 涙が……ふえぇぇぇん……涙が止まらない……!」
5. セフィル
ナズナ: 「セフィルは……少し特殊だと思うの。 彼は、言うなれば“成功できなかった私たち”。 仲間を、世界を救うために戦った──偉大な勇者。 でも、救えなかった。 その過去に後悔を抱え、全てを解決する知識だけを求め続けている、亡霊のような存在。 意思はなく、反応だけで動いている可能性もある。」
ナズナ: 「強い正義感を持ちながらも、それが過去を受け入れられず、力と意思が執着によって歪められた。 知識を求めるあまり、見境が無くなってしまった悲しき存在」
「セフィルは不死身で、戦術も遥かに私たちを超え、魔導力も高い。 禁断魔法すら扱える。 まともに戦えば、勝ち目はない……。 意思があれば破滅級の強さ、意思がなければ制御不能──どちらにしても恐ろしい存在。」
ナズナ: 「でもね、そんな状況になってまで、過去の仲間や世界のために誓いを守ろうとしている存在が、完全な悪であるはずがない。 やってきたことは悪かもしれない。 不器用で、傲慢だったかもしれない。 でも、全てが悪ではない。 腐っても、元勇者だもの。 彼にこそ、対話が必要だと思う。」
ナズナ: 「その鍵になるのが──ANEIの情報によると、“ノノ”という女性と、聖剣“ヴァルゼ・グリム”。」
ナズナ: 「だから……今回は総一郎とカデンにお願いしたい事があるの。 総一郎、私と一緒に来て。 彼の“意思”を、生成してほしい。 私が絶対、君を守る。 君の生成の力は“助けて欲しい”という想いに比例する。 遥か昔から救いを求めていた彼の気持ち──全てが終わっても、世界を守ろうとするその信念を、理解してあげて。」
総一郎: 「……わかりました。引き受けます。 僕が、勇者と向き合う──。」
ナズナ: 「大丈夫。君の心は、きっと“勇者”だから。」
カデン: 「で、俺は何すればいいんだ?」
ナズナ: 「……“召喚”って、どうやってやるの?」
カデン: 「仕組みを理解して、具体的にイメージできれば可能だ。 ただし、異界に実在するってのが絶対条件で、記憶とかの欠片があれば精度は上がる。 だから、曖昧なものを召喚するときは──何回も試すさ。ガチャみたいにな。」
ナズナ: 「そうか……。いきなりで悪いけど、ANEIの情報と、この聖剣ヴァルゼ・グリムを使って、“ノノ”という女の子を召喚してくれない? 勇者の一員だったなら、どこかの世界で、同じような形で転生しているかもしれないから……。」
カデン: 「……久々の難問だな。 いっちょ、やってみるか。」
──空気が張り詰めた。
カデンが聖剣ヴァルゼ・グリムを片手に持ち、瞳を閉じる。 黒髪が微かに揺れ、深い蒼の瞳がゆっくりと開かれたとき、そこには深淵の冷たさと、底知れぬ優しさが同居していた。
カデン: 「……なるほどね。時を守る者、記憶の残滓、因果のほころび……。 探る価値はあるな。こういうの、嫌いじゃない。」
指先がゆっくりと動き、聖剣の刃先が光を孕んで震えると、空気がきしむ音を立て、淡い光が溢れた。 空間そのものが歪み、何かが引き寄せられるように波打つ。
カデン: 「鍵は“記憶”と“繋がり”。 異界に埋もれたその残響を──掘り起こしてみようか。」
ナズナが息を呑み、一同がその光景を見つめる中、カデンはふっと笑みを浮かべた。
カデン: 「……さあ、出ておいで──ノノ。 誰もが忘れた君の存在を、俺が“思い出させて”やる。」
ズン……と、大地が低く唸り、重い響きが空気を震わせた。
光と影が絡み合い、無数の歯車と砂時計の残響が空間を満たしていく。 その中心に、淡い金髪がふわりと浮かび上がった。
白く汚れたドレスの裾が揺れ、細い手には小さな懐中時計が握られている。 琥珀色の瞳がゆっくりと開き、その視線は、まるで誰かを探すように宙を漂った。
ノノ: 「……ここは、どこ?」
その声は、透き通るように小さく、けれど不思議な重みがあった。 時の砂が舞い、歯車の音が子守唄のように響く。
ナズナは息を呑み、一同はその光景に立ち尽くす。 カデンだけが笑みを浮かべ、軽く肩をすくめた。
カデン: 「……これで、また少しは面白くなるだろ?」
ノノは、光の輪の中で、静かに立っていた。
ナズナ: 「君が……ノノ?」
ノノ: 「……そうよ、これは夢?」
ナズナ: 「違うけど……説明は難しいな。」
ノノ: 「……私、まだ眠たいの。寝てていい?」
ナズナ: 「あ、うん……ごめんね。あのベッド、使っていいよ。」
ノノ: 「……ありがとう。おやすみなさい……。」
カデン: 「……どうだ?」
ナズナ: 「うん……本物のノノだと思う。ヴァルゼ・グリムが共鳴してるから。」
アウリサ: 「なんか……マイペースな子ね。」
ナズナ: 「事情は後で説明するさ。これでピースが揃った。」
カデン: 「呼び出したこと、気にする必要はないぜ? いつでも返せるし、逆に“くっつけて”何かを別の世界に送ることだってできるんだぜ? 便利だろ?」
ナズナ: 「本当に助かったよ……ありがとう。」
6. ヴァレリウス
ナズナ: 「問いを投げる存在──ヴァレリウス。 彼は“世界そのもの”であり、他の存在とは根本的に異なる。 他の全ての敵を攻略できたとしても、ヴァレリウスだけは全てを覆し、終わらせる力を持っている。 おそらく、いかなる攻撃も通じない。 一度目の世界そのものから、今この時代まで唯一生き残ってきたという事実が、その強さを何より証明している。 だからこそ、彼が最も強い存在であることは間違いないと思う。」
ナズナ: 「だけど、彼の目的は私たちを倒すことじゃない。 彼が望んでいるのは、自分たちの“世界”を復活させること。 そして、その後に崩壊が起きないかどうか、データを取ることだと思う。 さっきここに現れたとき、彼が何もしてこなかったのは──自分が介入してしまえば、データが歪んでしまうから。 だから、彼はただ見ているだけ。 私が何を選び、どう動くのか──その結果を知りたいのよ。」
ナズナ: 「シグナルエコーという存在が崩壊を早める原因であることに疑いの余地は無いと彼らは思っている。 でも、そこに“例外”がある可能性を完全には否定できずにいるはず。 私たちが掲げる“全ての共存”という思想──それは、一度目の世界が選ばなかった選択肢であり、 彼ら自身がかつて達成できなかった“正解”なのかもしれない、という疑念を、彼はどこかで抱いているはず。」
ナズナ: 「総一郎が言ったように、一度目の世界の心は今も変わっていない。 『自分たちが新しい世界になる』──その発想は、ある種の乗っ取りに近い傲慢さであり、 『自分たちこそが選ばれし者』だという確信が、消滅を受け入れられない執着と怒りに繋がっている。 シンプルに言えば、彼らは“自分たちの間違いを認められず”、 そして“死”を、誰よりも恐れている存在なんだ。」
ナズナ: 「だからこそ“対話”で解決しないと意味がないんだ。 誰かが彼らに、“気づかせる”必要がある」
ナズナ: 「私は、彼ら自身の“声”であり、 今この時代の“祈り”を担う物であり、 良い未来が訪れるため"希望"を繋げねばならない存在でもある。 地球以外の、全ての世界から託された想いも背負い── 彼ら“一度目の世界”と向き合い、 そして、彼らをも救うための“糸口”を、見つけ出す。」
その言葉に意見を返す者はいなかった。 なぜなら、最終的な問題は──ナズナと言う全てを包括した代表者と、全ての始まりの一度目の世界の間にあると、誰もが理解していたからだ。
世界にとって、何が“正しい”のか。 その答えを、ナズナならきっと導き出せる。 そして、それは一度目の世界にすら負けない答えであり、全てを導く光になるだろうと── 仲間たちの中には、もはや疑う者などいなかった。 それは揺らぐことのない“核”として、彼女への信頼となって、そこにあった。
7. 民間人及び全体的なサポート
ナズナ: 「瑠璃、九条さん、千界さん、ANEI──あなたたちはなるべく大きな存在には近づかず、目の前で困っている人たちを助けてあげて。政府や企業と連携を取れるのは、あなたたちみたいに社会と密接に繋がっている人たちしかいないから。大きな存在は何を仕掛けてくるかわからない。いざとなったら、あなたたちを人質に取ってくる可能性だってあるの。だから、スヴァレと一閃丸、花子ちゃん──あなたたちは全力で護衛をお願い。守り抜いてあげて。」
ナズナ: 「……スヴァレと一閃丸、花子ちゃん。正直、私はあなたたちのことをよく知らない。でも、それでも信じてる。かつての敵が共に祈りを込めて杖を作ってくれたり、こうして一緒に解決策を考えてくれている。それだけで信じる理由には十分すぎる。人間とか、他の生命とか関係ない。同じ目的を持って進む仲間だもの。だから──頼んだわ。」
スヴァレ: 「ああ、任せとけ。俺たちはあの石柱から召喚されるレベルの連中だぜ?最近はド級の猛者がゴロゴロいて目立たないけど、場所が違えば最強なんだ。だから、絶対に守り切ってやるよ。……お前も、がっかりさせんなよ?」
ナズナ: 「あぁ!!」
外にいる一閃丸も相槌を打つように、刀の鞘で扉をコツンと叩く
花子: 「おねぇちゃん......ぜんぶこわしていい?」
ナズナ: 「ちょ、ちょっと!?話聞いてた!?」
カデン: 「大丈夫、それは花子のジョークだ。あいつが冗談言うときは機嫌がいい証拠だ。」
ナズナ: 「……そうなんだね。でも駄目だよ?みんなを守って?約束だよ?」
花子: 「……うん。」
ナズナ: 「それと、瑠璃……ごめん、お願いがあるの。みんなで、あなたの家に行かせてもらえないかな?ここじゃ、ちょっと狭すぎるから……。」
花芽瑠璃: 「もちろん。全員分の部屋も、一生困らないくらいの食事も用意するわ!露天風呂もあるし、車も10台はすぐ使えるわ。好きに使って。じゃあ、今から家の者に連絡を入れるわね。それと、各地の安全な場所で炊き出しと配給、簡易的な医療の設営も進めておくわ。」
カデン: 「それ、相当金かかるぜ?俺の金も使ってくれ。」
ナズナ: 「ありがとう!本当に助かる!」
総一郎: 「あの……ごめんなさい。こんな時に聞くことじゃないのはわかってるんですが……お二人って、一体どれくらい財産を持ってるんですか?」
ウズメ: 「総一郎さん……無粋ですよ。」
(花芽瑠璃とカデンがこそこそと耳打ちを交わす)
花芽瑠璃: 「多分……会社や家のお金を抜きにして、株とか不動産を除いた現金だけで……二人合わせて、一兆円くらいかしら?」
総一郎: 「ああ……そ、そ……そうですか。すごい、を超えて……恐ろしい……。」
ラスナ: 「それは“すごい”のか?」
ルミエール: 「パンが百億個は買えるわね。この地球にいる人たち全員に、一切れ半ずつ配れるわ。」
ラスナ: 「なんと!!」
アウリサ: 「露天風呂に日本料理?最高じゃない!」
ナズナ: 「千界さん……あなたには、なるべく脅威の対象との戦闘は避けて欲しい。民間人をシェルターや安全な場所に避難させてほしいの。TASK-Vが異界の存在に手を出したら、敵とみなされて大規模な戦闘が始まる可能性があるから……。この指令を、軍や政界、マスメディアにも至急伝えて。決着はそう長くはかからないと思う。だから、その間だけはみんなに我慢して、じっとしていてほしい。そうすれば、元の世界に戻れる可能性があるから。」
千界: 「任せろ。すぐに指令を出す。」
ナズナ: 「九条さんは……信じてる。それだけで十分。」
九条: 「あれ?姉ちゃん、俺だけ薄くない?……って、絶対いじっただろ!?まあいい。ぜってー活躍してやっからな!見とけ!」
ナズナ: 「本当に信じてるんだよ。ふふっ。」
8. 最後の決意
ナズナ: 「──よし、明日から始めよう。できるだけ早い方がいい。対峙する順番は……セレノヴァ → スーパーノヴァ → イシュファール → アモヴォール → セフィル → ヴァレリウス。これで行く。
みんな──絶対に生き残ろう。もちろん、私も生き残る。だって、世界を崩壊から救わなきゃいけないんだから
私は……あなた達と共に行動できる事に、心から感謝してる。そして、それを導いてくれている、この世界の因果にも感謝してる。この世界が大好きなの。
だから──みんなで勝ち取ろう。誰も見た事の無い、果てなき幸せが溢れて続いていく世界を。みんなの手で紡ぎ出すんだ」