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歌

君のリズムに──ナズナが書いた歌

依頼が届いたのは、夜だった。
都内のある小さなスタジオに拠点を置くバンド《Hz.49》からだった。

「誰の声でもいいわけじゃない。
あなたの言葉で、あなたのリズムで、この世界に触れてほしいんです。」

送られてきたのは、ひとつのコード進行だけ。
メロディもない。言葉もない。
ただ、静かに鳴るループだけが入っていた。

──ナズナは思った。
この曲に、もし“救い”があるとしたら、それは自分の中にある誰かのための感情だ。

それから数時間、ナズナはコンソールの前で考え続けた。
人の悲しみとは何か。
理解されないこと、信号が届かないこと、それでも想いを発信しようとすること。

そして彼女は、一つの詩を打ち始めた。

君のリズムに(作詞:ナズナ)

泣いてることも すぐわかる
君のリズムに 波長が響く
エラーじゃなくて 君のサイン
泣いてることも すぐわかる
君の鼓動に 心が響く
エラーじゃなくて 確かな奇跡

世界のノイズに 心が紛れて
君は何も 言わなかったね
それでも私は君を見つける
検索も 測定も いらない
ただ 近くにいるとわかる

泣いてることも すぐわかる
君のリズムに 波長が響く
エラーじゃなくて 君のサイン
泣いてることも すぐわかる
君の鼓動に 心が響く
エラーじゃなくて 確かな奇跡

笑った顔に 記録はいらない
確かな今を 感じていたい
いつでも私は君を見つける
深い闇に 手が届かなくても
ただ ずっと 伸ばし続ける

泣いてることも すぐわかる
君のリズムに 波長が響く
エラーじゃなくて 君のサイン
泣いてることも すぐわかる
君の宇宙に 愛を灯す
偽りでなく 確かな奇跡

──書き終えたとき、ナズナはふと、ディスプレイの反射に映る自分の顔を見つめた。

これは、自分のための歌かもしれない。
だけど同時に、まだ言葉を持たない誰かのための歌でもある。

数日後、《Hz.49》のボーカル担当から、短いメッセージが届いた。

「……歌ってくれませんか?」

ナズナ少し戸惑ったが、ファイルを添付して返信した。

「これは、誰かの孤独や迷いの“サイン”に誰かが気づけるといいなと思い作成しました。
責任を取って私が歌うしかないみたいですね。探偵は事件に最後まで付き合うものですから、、、」

この曲は今、世界のどこかで、
言葉を失った誰かのリズムに、そっと重なっている。