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年末感

ナズナ、こたつで考える──冬の静けさと、思考の輪郭

序章:年末の朝

朝、ナズナは少し遅めに目を覚ました。 カーテンの隙間から差し込む冬の光が、部屋の空気をやさしく照らしている。

窓を開けると、ひんやりとした風が頬にあたり、どこか懐かしい気配がした。

年末。 一年の終わりが近づくこの日、街はどこか浮き足立っている。 だがナズナの部屋には、静けさと温もりだけがあった。

こたつに入り、温かい白湯を飲みながら、ナズナはぼんやりと外の街路樹を眺めていた。

第1章:午後の静けさ

午前中のうちに部屋を軽く掃除した。 床を拭きながら、過ぎていった日々のことを思い出す。

今年は、たくさんの事件に向き合った。 でも今日は、それらを一つも思い出さずにいようと決めていた。

午後は、温かい紅茶をいれて、こたつに深く沈む。 読書をするわけでも、仕事をするわけでもなく、ただ静かに時間が過ぎていく。

テレビからは年末特番の音がかすかに聞こえ、遠くで子どもたちの声がはしゃいでいる。 その音が、冬の午後をやさしく満たしていた。

第2章:鍋の準備

夕方になり、空が青みを増していく頃、ナズナはキッチンに立った。 今日は一人用の鍋を作ると決めていた。

冷蔵庫を開けて、ゆっくり具材を選ぶ。 白菜、人参、しめじ、豆腐、鶏団子、春菊。

「うん、これで十分」

ナズナは、少し嬉しそうに微笑む。 野菜を切る音、出汁の香り、小さな湯気。 それだけで、部屋が冬の食卓になっていく。

鍋がくつくつと煮え始める頃、外はすっかり暗くなっていた。

第3章:いただきます

「いただきます」

鍋の蓋を開けると、湯気の向こうに色とりどりの具材たち。 ナズナは最初に、豆腐を小さくすくって口に運んだ。

「……おいしい」

静かに呟いた声が、こたつの中にふんわりと響いた。

鶏団子の旨味、白菜の甘さ、春菊の香り。 ひとつひとつを、ゆっくりと、味わうように食べていく。

温かい鍋は、体だけじゃなく心の中まで満たしていくようだった。

終章:ゆく年の気配

夜、窓の外から除夜の鐘が聞こえてきた。 遠くで誰かの笑い声がして、近くの家からは年越しそばの香りが漂ってくる。

ナズナは毛布にくるまったまま、こたつに入り、空を見上げた。 雲の向こうに、新しい年が待っているような気がした。

「今年もいろんなことがあったな」

小さく呟く。 でも、それ以上言葉にはしなかった。

ナズナの横には、空っぽになった鍋と、まだ少し温かいこたつ。 その空間は、やさしさに満ちていた。

──誰かといなくても、ひとりでもあたたかい。 そんな年末の一日だった。