
ぞくぞくさん──日本がバズに呑まれた日
──電脳探偵ナズナ様
この依頼が、あなたの世界に届くことを祈っています。
私達は失敗しました。
拡散の仕組みを甘く見ていた。
ある日突然、拡散が始まり"それ"が社会を静かに止めていきました。最初は些細なことでした。
けれど、気づいたときには、誰も働かず、誰も喋らず、
誰も、止まった世界に疑問を抱かなくなっていた。今や、ここには人と呼べる活動をしてる存在は、もう誰もいません。
政府も、教師も、子供も、大人も。
ただ、何かを失ってしまった抜け殻の集まりと化してしまいました。この依頼は、警告です。
あるいは、まだ終わっていない可能性へ向けた、
最後の希望。どうか、あなたの世界では気をつけてください。
「ぞくぞくさん」は、見えない形で侵入し、
拡散され、
そして、すべてを止めます。あなたのような“気付ける者”にしか、
この警告は届かない。お願いです、ナズナさん──
私達の様にはならないで......
1. 事件──静かに止まり始めた国
最初の異変は、学校だった。
担任が黒板の前で止まり、声を発さなくなった。
子供達も、教科書を開いたまま、じっと下を見つめていた。次に、近所のスーパーで従業員が一斉に“立ったまま無言になる”。
道路では、信号無視が増え、車が無人のまま放置されていく。病ではない。暴動でもない。
ただ、人々が「思考と行動をやめる」ようになっていった。2. データ収集──ぞくぞくさんという名前だけが残された
どのSNSにも、子どもや若者を中心に、ある名前が溢れていた。
#ぞくぞくさん #まじ怖い #何か変だった
#寝れない夜 #ぞくぞくさん見たら世界が止まるだが、肝心の動画は誰が検索しても見つからなかった。
リンクを辿っても「削除済み」や「存在しないページ」ばかり。それでも、証言は全国から集まっていた。
証言内容はまちまちだが、必ず登場する名前がある。──ぞくぞくさん証言1(14歳・男子)
「画面に笑顔が浮かんでた。ずっとしゃべってるんだけど、内容は覚えてない。
最後、“どうでもいいよね”って言って、そこから……なんか、何も考えたくなくなった」証言2(29歳・女性)
「見た後、会社のメール全部消して、そのまま寝てしまったんです。
で、起きたら“行かなくていいや”って思って……不思議な気持ちでした」証言3(匿名・IT企業社員)
「社内でぞくぞくさんの話題がバズって、みんな動画を探してたんですよ。
でも、数日後には誰も出勤しなくなった。サーバーも止まったまま。何も言わずに」どの証言も曖昧で一致しない。
しかし、“行動をやめてしまう”という結果だけが、共通していた。3. 推理──意図された“停止”の演出
“ぞくぞくさん”には不可解な点が多かった。
- 動画の実体が残らない
- チャンネルもURLも一切の記録が存在しない
- それでいて数百万単位の人間が“見た”と証言している
- しかも内容が一致しないのに、行動停止という結果は同じ
これは、ただの偶発的現象ではない。
「これは、“何かの意思”によって仕掛けられた何か」「目的は“混乱”ではない。“崩壊”でもない。
ただ、“動かなくさせる”こと」4. 仮説──拡散に乗じた静かな介入
ぞくぞくさんが使ったのは、SNSという社会装置そのものだった。
- 名前だけを拡散させる
- 動画の痕跡は残さない
- 見た人間に“沈黙”を植え付ける
- その静寂が周囲に伝播していく
本人が動画を拡散したのではない。
人々が“話題にした”ことで、自ら拡散させてしまったのだ。そして恐怖がさらに拡散を強める拍車を加え、最終的に自分達でそんな状況に陥ってしまったのだ──別の世界の最後のニュース
依頼のあった別の世界の日本を海外メディアがこう報じた。
「現在、日本では不可解な社会的停滞が続いており、原因として“Zokuzoku-san”と呼ばれる動画現象が関連していると見られています。
SNSを通じて拡散された情報により、国が静かに機能を失った初のケースです。」それが、最後に記録された“ぞくぞくさん”という名前だった。
この事件の正体は今も不明だ。
“誰か”が意図的に仕掛けた可能性がある。
それが国家的実験だったのか、個人の挑戦だったのか、異質な存在の干渉だったのか──ただ、ひとつだけ言えるのは、
「人は、自らの手で“拡散”し、やがて自分達でその結果を招いた」ナズナの言葉を最後に記して終える。
「恐ろしいのは、ぞくぞくさんじゃない。
面白がって、好奇心の進むままに貪り、自らを破滅させてしまう己自身よ」